小説「イメージ4」No:97
イメージ No:97
テレビ番組【アルミの窓】のMC中山アルミから出演を依頼され経営者会
議の海会長と(株)雪月花社長福賀はライブでの収録を希望した。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番が伊東温泉・山海ホテルで行われてい
るところだ。
スタッフの事前調査で資料を集め福賀が念力を使えると解ったのでアルミが
自分に掛けてほしいと頼んだ。
「では」
福賀はアルミの目を見て息を詰めている。
或る現象が瞬時に起こった。
アルミの目が閉じられ身体が硬直したように見えて浮き上がった。
直立した身体が僅かな高さに浮遊しながら海会長の方に進んで行く。
3メートル離れていた位置を2メートル移動したところで止まり床に降りた。
福賀が何か韻を切るような仕草をした時アルミが元に戻った。
「あれっ!」
何が自分に起こったか解らないようで唖然としていたが其処はMC我に返って
スタッフに自分が福賀の念力にかかった映像を画面に出してもらった。
「全く覚えがありません。私が座った状態から立ち上がって空中を2メートル
移動した。その映像は恐らく世界でも初めてではないでしょうか?」
「さ~それは解りません」
「有難うございます。恥ずかしい事が起こらなくてホッとしました」
「私も此れは初めてで、宙に浮きながら私の方にアルミさんがやって来るので
どうしたら良いかと思いましたよ。いつの間にこんな術を身につけたのか?」
「それは会長、私のシークレットです」
と云いながら福賀が動いた。
ディレクターがアルミをうながす。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番だから福賀の動き次第なのだ。
福賀が海会長を誘ってエレベーターの方に歩いて行く。
其れをアルミとスタッフが追って行く。
女将が機材運搬用のエレベーターにカメラスタッフを誘導する。
客用のエレベーターには海会長と福賀そしてアルミとディレクターだ。
エレベーターは5階に止まった。
其処にはスイート・ルームが5室と宴会場がある。
リニューアルの時に福賀が頼んだ檜造りの舞台がある。
福賀は既に浴衣に着替えて檜舞台の上にいた。
舞台の脇には伊東の芸妓連が待ち構えている。
「海外で日本の文化を紹介する時に観てほしいと或る宗家にお願いして奴さん
とカッポレを習いました。其れを時々此処でおさらいをしています」
三味線が弾かれ歌が流れると福賀の身体が自然に動き出した。
ライブだから。
大学は美術学部で専攻はグラフィック・デザイン。
でもね。
彼は合気道九段、少林拳師範と気功術師範でもあるのだから。
二曲を踊って舞台を降り、芸妓衆に礼を言ってエレベーターの方に移動だ。
福賀が決めたライブだから彼を追うしか方法がない。
降りたところは山海ホテル内の福賀の自室。
其れも海外との連絡などに使うパソコン3台の仕事部屋とアトリエ兼寝室更に
其の二部屋には外側に温泉露天風呂が付いている。
海会長も用意された浴衣に着替えていたが・・・。
「会長、先に湯船に浸かっていてくれませんか。後から行きます」
「あいよ」
男だけってことは無くなるだろうけど。
此れが男の裸の付き合いってものなんだね。
以心伝心とかツーと云えばカー。
ひょっとすると海会長も福賀のエスパーなのかも知れない。
もう手話はいらない。
映像が全て語ってくれるから。
海会長が湯船に浸った頃合いを見計らって福賀が露天風呂に入っていく。
福賀の後ろ姿が写される。
五代目名人彫辰の昇り龍と桜吹雪が綺麗だ。
アルミが一瞬目を閉じたが、直ぐ大きく開き直った。
流石だ。
寸時に覚悟を決めたらしい。
辞めさせえられても仕方がない。
はっきり見た。
福賀は右手に手拭を下げて素のままの姿だ。
海会長の右側を回って一瞬前を隠した。
そして一度首まで浸かったが少しして腰まで身体を湯面から出して泳ぎ始めた。
背中の龍が波立てて生きているようだ。
カメラがその絵を撮る。
海会長と福賀が湯船から上がろうとする。
カメラは外に見える漁火を眺めるように撮り続けていた。
エレベーターは1階に降りてタペストリーが掛かっているホールに戻った。
途中にCMを挟み、ディレクターが巧みに番組を作っている。
昼食抜きの2時間のライブが終わろうとしている。
「このタペストリーについて伺いたいのですが?」
また福賀の手話が蘇った。
「このタペストリーは私が国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞し
た作品を京都で西陣織に織ってもらった物です。雪月花に入って専務になって
から此のホテルに引き寄せられて泊った時に女将さんにリニューアルの相談を
うけてホテルのポイントになる物として考えたのです」
「此処は福賀さんにとって或る意味でイメージのスタートの場所のようですね」
「そうです。全くその通りです」
「まだまだ福賀さんは不思議でなりません。またよろしくお願いいたします」
「中々その機会は難しいですが・・・」
「海会長さん。今日は大変お世話になり有難うございます。また宜しくお願いし
たいです」
「私が驚いたと話した福賀君の表の仕事を支えているものは彼が寸時を惜しまず
努力を重ねたからだと思ったのでアルミさんに頼まれて一肌脱がせてもろいまし
たが500回のお祝いになりましたでしょうか?」
「お陰様で十二分視聴者の皆さんにお楽しみいただけたと思います。更に福賀さん
の不思議さが増えました。ご本人は出演は難しいと仰っています」
「彼の事でしたら私が何とかしましょう。その節はどうぞ私を使ってください」
「そんな~使うなんて恐れ多い。でも海会長さんにお願いしないと福賀さんは来て
くれませんので宜しくお願いいたします」
福賀は二人の会話を手話にするのに困っていた。
「ところで、福賀さん。お子様は?」
「その事は、二人で何人か養子をお世話していただいて育てたいと決めています」
つづく
テレビ番組【アルミの窓】のMC中山アルミから出演を依頼され経営者会
議の海会長と(株)雪月花社長福賀はライブでの収録を希望した。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番が伊東温泉・山海ホテルで行われてい
るところだ。
スタッフの事前調査で資料を集め福賀が念力を使えると解ったのでアルミが
自分に掛けてほしいと頼んだ。
「では」
福賀はアルミの目を見て息を詰めている。
或る現象が瞬時に起こった。
アルミの目が閉じられ身体が硬直したように見えて浮き上がった。
直立した身体が僅かな高さに浮遊しながら海会長の方に進んで行く。
3メートル離れていた位置を2メートル移動したところで止まり床に降りた。
福賀が何か韻を切るような仕草をした時アルミが元に戻った。
「あれっ!」
何が自分に起こったか解らないようで唖然としていたが其処はMC我に返って
スタッフに自分が福賀の念力にかかった映像を画面に出してもらった。
「全く覚えがありません。私が座った状態から立ち上がって空中を2メートル
移動した。その映像は恐らく世界でも初めてではないでしょうか?」
「さ~それは解りません」
「有難うございます。恥ずかしい事が起こらなくてホッとしました」
「私も此れは初めてで、宙に浮きながら私の方にアルミさんがやって来るので
どうしたら良いかと思いましたよ。いつの間にこんな術を身につけたのか?」
「それは会長、私のシークレットです」
と云いながら福賀が動いた。
ディレクターがアルミをうながす。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番だから福賀の動き次第なのだ。
福賀が海会長を誘ってエレベーターの方に歩いて行く。
其れをアルミとスタッフが追って行く。
女将が機材運搬用のエレベーターにカメラスタッフを誘導する。
客用のエレベーターには海会長と福賀そしてアルミとディレクターだ。
エレベーターは5階に止まった。
其処にはスイート・ルームが5室と宴会場がある。
リニューアルの時に福賀が頼んだ檜造りの舞台がある。
福賀は既に浴衣に着替えて檜舞台の上にいた。
舞台の脇には伊東の芸妓連が待ち構えている。
「海外で日本の文化を紹介する時に観てほしいと或る宗家にお願いして奴さん
とカッポレを習いました。其れを時々此処でおさらいをしています」
三味線が弾かれ歌が流れると福賀の身体が自然に動き出した。
ライブだから。
大学は美術学部で専攻はグラフィック・デザイン。
でもね。
彼は合気道九段、少林拳師範と気功術師範でもあるのだから。
二曲を踊って舞台を降り、芸妓衆に礼を言ってエレベーターの方に移動だ。
福賀が決めたライブだから彼を追うしか方法がない。
降りたところは山海ホテル内の福賀の自室。
其れも海外との連絡などに使うパソコン3台の仕事部屋とアトリエ兼寝室更に
其の二部屋には外側に温泉露天風呂が付いている。
海会長も用意された浴衣に着替えていたが・・・。
「会長、先に湯船に浸かっていてくれませんか。後から行きます」
「あいよ」
男だけってことは無くなるだろうけど。
此れが男の裸の付き合いってものなんだね。
以心伝心とかツーと云えばカー。
ひょっとすると海会長も福賀のエスパーなのかも知れない。
もう手話はいらない。
映像が全て語ってくれるから。
海会長が湯船に浸った頃合いを見計らって福賀が露天風呂に入っていく。
福賀の後ろ姿が写される。
五代目名人彫辰の昇り龍と桜吹雪が綺麗だ。
アルミが一瞬目を閉じたが、直ぐ大きく開き直った。
流石だ。
寸時に覚悟を決めたらしい。
辞めさせえられても仕方がない。
はっきり見た。
福賀は右手に手拭を下げて素のままの姿だ。
海会長の右側を回って一瞬前を隠した。
そして一度首まで浸かったが少しして腰まで身体を湯面から出して泳ぎ始めた。
背中の龍が波立てて生きているようだ。
カメラがその絵を撮る。
海会長と福賀が湯船から上がろうとする。
カメラは外に見える漁火を眺めるように撮り続けていた。
エレベーターは1階に降りてタペストリーが掛かっているホールに戻った。
途中にCMを挟み、ディレクターが巧みに番組を作っている。
昼食抜きの2時間のライブが終わろうとしている。
「このタペストリーについて伺いたいのですが?」
また福賀の手話が蘇った。
「このタペストリーは私が国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞し
た作品を京都で西陣織に織ってもらった物です。雪月花に入って専務になって
から此のホテルに引き寄せられて泊った時に女将さんにリニューアルの相談を
うけてホテルのポイントになる物として考えたのです」
「此処は福賀さんにとって或る意味でイメージのスタートの場所のようですね」
「そうです。全くその通りです」
「まだまだ福賀さんは不思議でなりません。またよろしくお願いいたします」
「中々その機会は難しいですが・・・」
「海会長さん。今日は大変お世話になり有難うございます。また宜しくお願いし
たいです」
「私が驚いたと話した福賀君の表の仕事を支えているものは彼が寸時を惜しまず
努力を重ねたからだと思ったのでアルミさんに頼まれて一肌脱がせてもろいまし
たが500回のお祝いになりましたでしょうか?」
「お陰様で十二分視聴者の皆さんにお楽しみいただけたと思います。更に福賀さん
の不思議さが増えました。ご本人は出演は難しいと仰っています」
「彼の事でしたら私が何とかしましょう。その節はどうぞ私を使ってください」
「そんな~使うなんて恐れ多い。でも海会長さんにお願いしないと福賀さんは来て
くれませんので宜しくお願いいたします」
福賀は二人の会話を手話にするのに困っていた。
「ところで、福賀さん。お子様は?」
「その事は、二人で何人か養子をお世話していただいて育てたいと決めています」
つづく
2024-05-05 04:37
nice!(106)