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小説「イメージ4」No:96

イメージ No:96

「女性にも女にはって無いですか?」
福賀がアルミに聞いて来た。
「どうでしょう?考えてもみませんでしたが、あると思いますよ」
でも、その件は宿題にさせてくださいとアルミはかわした。

「海会長さん。遊びの事で伺いたいのですが?」
「遊びね。大して遊んでいませんが・・・」
「いいえ。遊びの仕事のうちだし生きるって事っておっしゃいました」
「私がそんな事を・・・」
会長はかわそうとした。

「前回伺っています」
「まあね。遊びも生きるために必要な事でしょう。私は古い人間だから時代に
よって生き方の違いも知っています。確かに昔の遊びも知ってるし、経験んも
しています」
「政治家のお偉いさん方は夜な夜な銀座のクラブなどに遊びに行かれてるそう
ですが会長さんも夜な夜な遊びにいらっしゃいますか?」
「夜な夜なは行きませんよ。たまには行きますが、私が行くのと政治家の先生
が行くのは同じにしてほしくないです」
会長は憤然と言い放った。

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「どういう事ですか?」
「私は経営者同士の付き合いだったり仕事関係の付き合いだったりですが、彼
らは公僕です。国民の血税を使って居る訳ですから立場がちがいます」
「海会長さんは政治家の先生たちがクラブで遊ばれるのは感心しないと」
「そうですよ。遊びなんかしていてはいけない立場です」
「先生、先生と呼び合っていますが其れについては如何ですか?」
「気持ち悪い」
「はっきり仰いましたね。すっきりです」
「まあね。先生先生っておだてる方も良くないんだけどね」
「貴女彼らに何か教わりましたか?」
「いえ。何も教わっていません」

「そうでしょう。私も彼らに教わった事ないです。国民のため、国のために働
く立場の人間でしょう彼たちは」
「海会長さん。お酒召し上がっていませんよね」
「素面ですよ。はっきり云って夜の世界でお店を経営していらっしゃる経営者
がいらっしゃる。経営者同士で持ちつ持たれつって関係ですね。私たちは」
「経営の世界は昼の部と夜の部があるのですね」
「そうです。そして、その中でも色々あると云う事ですね」
「なるほで。昔に吉原あり、負の遺産と認識していますが?」

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「そうですね。確かに負の遺産です。だから其れを美化してはいけないと思う」
「海会長さんはどの辺まで負の資産をご存じですか?」
「知識としては可成り昔の負の遺産を知っています。若い頃は父親に連れていか
れました。今は夜の銀座でクラブに行っています」
「お馴染みのお店も何軒かあったり・・・」
「そうです。一軒だけとはいきません。複数の件数ですよ。アルミさん行きたそ
うですね。今度一緒に夜の経営者を梯子しますか?」
「是非おねがいします」
「前回ちょこっと云ってしまった福賀君につながるあれね」
「連れて行ったら福賀さんが知ってた店だったって・・・」

「そう。私にも失敗が沢山あるんですよ」
「お酒を楽しんだり、それも女性がお相手で・・・」
「夜の女性も色々。お客も色々。お酒が入るから気持ちが解放されて負の遺産を
戴く事も多々あったりしますね」
「其れも男だからですか?」
「そうだね。良い事じゃないけど、男だから仕方ない。此れも勉強なんて飲み込
んだり」
「洒落ですか?」
「まあね。私は福賀君のように怖い世界から守られてないから。痛い目にも会う」

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「海会長さんは昔と今を経験されてるから若い人たちに対応されていらっしゃる」
「それはどうか解りませんが・・・」
「福賀さんの話が出たところで、昔と今について如何ですか?」
アルミが福賀に振って来た。
「如何ですかって、何が?」
「男の遊びの世界です」
「吉原の話は、昔々の先輩の話として聞きましたが吉原から学校に通っていた先
輩が居たそうですよ」
「吉原に家が在ったのですか?」
「そうではなくて吉原に泊まり続けていたんです」
「え~っ!そんな事・・・」
「学校が学校と云うところもあったのでしょう」
「不謹慎極まりない」
「女性が女としての感じですね」
「でも、男ってその話を聞いた時に凄いな~って思いましたよ」
「え~?」

「え~って其れも男はって事です。理解出来ないと思いますが」
アルミは暫く黙ってしまった。

 やっと気を取り直したのだろう。
「福賀さんはご両親を3歳の時に交通事故で亡くされました。その後、合気道五
段の叔父さまに育てられ大学に入学の時点で九段になられた。大学の夏休みが2
か月近く在ると知って中国の少林寺に入門して中国四千年の歴史を少林拳を通し
て学び大学卒業までに師範の資格を得て、その時点で気功も習得されたと伺って
います。其れだけでも大変な事だと思いますが、其の上に美術の表裏と云っては
語弊があると思いますが裏美術と福賀さんは仰っていましたが和の刺青師でもあ
り名人の称号六代目彫辰さんでいらっしゃる」
此処まで一気に云ってからふ~っとため息をついた。

「はい。その通りで間違いありません」
「そして、自然と会話をされる」
「はい。いたします」
「前回には伺っていませんでしたが・・・念力もなさるとか?」
「よくご存じで・・・」
「今回の為にスタッフが一生懸命に頑張ってくれました」
「凄い!これは私のシークレットな部分です」
「是非お願いです。私に掛けていただけませんか?」

 つづく

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小説「イメージ4」No:95

イメージ No:95

 この物語はフィクションであり現実のようで現実ではない。
現実は様々な他力の規制で成り立っており、ある所では一つの思想によって規
制され又ある所では金と権力で社会が作られている。
 
 昔々ある所の社会は女性を頂点に置いた時代があった。
しかし、やがて其の時代も男性が殺し合いで社会を支配するようになった。
人と人が殺し合う弱肉強食こそ男性社会の本質である。
 
 フィクションでは肉体的な力や武器で支配する男性社会とは違う女性社会が
自然を愛するイメージのなかで成立する。
其れが此の物語の主人公・福賀(フクガ)貴義(キヨシ)のイメージである。

 語り手は空に浮かぶ【雲】の私。

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 自然の造形は実に素晴らしい。
植物にしても魚にしても動物にしても生き物に全く同じものはない。
夫々に違いを持たせて造られている。
しかし、其の違いにも非常に厳しい違いを造って私たちに試練を与えている。

 見えたり見えなかったり聴こえたり聴こえなかったり等、視覚・聴覚・触覚
・味覚・嗅覚の五感の違い。
また五感とは別に身体的な能力や思考に関係する知的能力の違い。
その全てを持たずに生まれてくる事もある。

 それらの一つを失っても不自由である。
故に誰もが生まれてくる子に願う五体満足などは奇跡であって恵まれ過ぎであ
る。
其れでも一応一通り持ち合わせていると更に豊かさや便利さを望んでしまう。

 さて、そんな事を心の中に持ち続けている福賀貴義は3歳の時に交通事故で
失った両親から恵まれた五感と優れた知的能力を受け継いでいる。
叔父に引き取られたとは云え本来は孤児だ。
精神的にどれ程のダメージを受けているか解らない。
救いは合気道五段の叔父と住まいの近くに広がる砂浜と打ち寄せる波が広がる
海と親しみ会話が出来るようになった事だろう。

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 XZ東京テレビ【アルミの窓】のMC山中アルミと制作スタッフ達が伊東温泉
・山海ホテルのホールに集まっている。
いつもは局のスタジオで行うのだが福賀と海の希望で初めの局外収録。
其れもライブだ。

 会場は1階フロントに繋がるロビーのホールだ。
ホールの外から向かって左側に広い壁面、そこには大きなタペストリーが飾っ
てある。
其の壁面の前に二つの椅子が左側に向かって右側にMCアルミの椅子が置かれ
ている。

 その向かい側に3台のカメラが構えている。
勿論、前もって山海ホテルをアルミとディレクターそしてカメラマン其の他の
スタッフが現場を確認と女将との当日の打ち合わせを済ませている。
ホールの配置設定と一部のスペースを観客用に用意する。
あたかも其処に局のスタジオが移ったように。
出来ればライブの様子は夫々部屋のテレビで観てくれるようにと女将にお願い。

 昼食はどうするか女将がアルミに聞いて来た。
「みんなどうする?」
アルミがスタッフに聞く。
「終わってからで良いのでは?」
ディレクターがスタッフに問う。
「終わってからで良いです」
スタッフから元気な気持ちが跳ね返って来た。

 13時を過ぎて入念なチェックが行われていく。
外に動きがあった。
2階のバルコニーで見ていたスタッフから連絡が入った。
福賀の愛車、白のポルシェが着いたと。
玄関を入る二人を手持ちカメラが撮る丁度14時ぴったりだ。 
入ったところで二人は女将と挨拶を交わしてホールに向かった。

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 ホールに入った福賀が手話でアルミに挨拶をした。
それを受けたアルミは自分が大事な事を忘れていた事に気付いて硬直してし
まった。
すかさず福賀がカバーする。
「当日ぶっつけ本番のライブでとお願いしたのは私の方でして事前の打ち合わ
せも無しにしていただいたので今日は私が手話通訳をさせていただきます。先
ず椅子の配置ですが・・・私が真ん中でお二人と自分の会話を手話でします」

 ライブですからその場で椅子の配置をスタッフが直して夫々の位置が決定。
こんな事は【アルミの窓】始まって以来の事でアルミは黙って立っていた。
何か今日のMCは福賀になってしまったようだ。
夫々の位置はタペストリーが掛かった壁面を背に中央に福賀。
左側に海会長そして右端にアルミが向き合う形になった。

「良い訳になりますが、いつもは局の【アルミの窓】ようのスタジオを使って
収録した後に編集で音の代わりに文字を入れていましたから・・・申し訳あり
ませんでした」
中央に座っている福賀が手話でアルミの謝罪を通訳する。
「いや。私は何も考えていませんでした。流石に福賀君は状況を把握していた
ようだ。あの総理所信表明演説を思いだしたよ」

「手話通訳士のようには出来ませんから時間が掛かりますが2時間在りますの
で頑張ります」
勿論自分の発言も手話で。

「有難うございます。では福賀さんに手話通訳をお願いして【アルミの窓】を
始めます。実は今日で500回になります。これも皆様のお陰と心から感謝し
ております」

ホールに用意された客席から大きな拍手が挙がった。

「片や日本の経済を守っておられる経営者会議の海会長さんと前総理として日
本で初めて女性の内閣総理大臣を作られた今は株式会社雪月花の福賀社長さん
にご無理をお願いしてお越しいただきました」

「私は二度目になります。多くの人たちに支持されている【アルミの窓】に出
させていただき、それも記念になる500回に呼んでいただき光栄に思ってい
ます」

「私も会長と同じ気持ちです。今日は日程も条件も自由に決めさせえていただ
き申し訳なく思っています。呼んで良かったと喜んでいただけるように頑張り
たいと思っています」

「前回は海会長さんから日本の経済について色々お話を伺う事が出来て大変勉
強になりました。今日は堅い世界から柔らかい世界を覗かせえていただければ

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と思っています」

「そうですか。柔らかい世界の私ですか。頑張りましょう」
「それから福賀さんですが・・・」
「私の柔らかい世界ですか?」
「はい。前回の時に海会長さんが福賀さんの柔らかさに驚かれたと伺っていま
すので」
「会長が頑張りると仰っていては頑張らない訳に行きません」

「先輩を置いては進めませんので海会長さんにお聞きします」
「来ましたね。何でしょう?」
「今は株式会社海船舶の会長さんでいらっしゃる」
「そうです。代々船の会社ですから」
「代々ですと・・・あの有名な回線問屋の?」
「前回はそう云う話はしなかったね。そうです・その前は水軍だったりして」
「村上水軍の流れだったりします?」
「しますね」

「なんと、歴史をたどるようで興味津々です」
「北前船は主に日本海沿岸にところどころに拠点を置きましたから」
「今でも其の実態は生きて居るんですか?」
「生きてないと云えば噓になりますね」
「海会長さんは日本海と太平洋を駆け巡る正に海の男ですね」

「日本は島国ですからね。国から出るには海か空でしょう」
「そうですね。今は直ぐ上を見てしまいますが」
「飛行機ね。だけど重い物とか、大きな物は空は無理です。
「重機とか身近な物では石油が一番解り易いですね」
「そうですね。タンカーですか」
「そうですね。でも私のところでは漁船もヨットも扱っていますよ」
「お魚ですね。身近です」
「アルミさん。お魚好きですか?」
「お魚大好きです」
「肉は?」
「肉も大好きです」

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「生き物は寝かせえて運ぶわけにはいきません」
「そうですね。お魚は冷凍に出来るでしょう。でも牛とか馬はだめですね」
「船の燃料は?」
「石油ですね」
「電気かと思いまいした」
「電気も使いますよ。でも石油が主力です。飛行機も石油で飛びますが」
「石油って大事なんですね」
「そうです。石油をエネルギーに変えて走ったり飛んだりしています。昔、日
本が最後の戦争をした理由にしているのがアメリカが日本の石油輸入ルートを
全部抑えたからと云っています」
「当時、日本の海軍はアメリカより充実していたと聞いています」
「それは事実でしょう。アメリカは陸地が広いから島とは云えない。日本の陸
地面積は狭いから海に囲まれた島ですね」
「島国ですね」

「ヨットいいですよ」
「会長さんはヨット持っていらっしゃる?」
「大したヨットじゃありませんが一応持っていますよ」
「海に船。ロマンティックですね」
「まぁね(笑)」
「一度乗せていただきたいです」
「良いですよ。でも、海はいつも優しいとは限りませんよ」
「そうですね。荒れたり、海賊に出会ったり怖い事もあるんでしょう」
「ありますね。それを知っておくことが大切ですね。私は子供の頃から男の子
は船に乗って海の向こうに出て行けと父親に云われたものです。男はと云うと
福賀君に笑われますが」
「いや。私も大学の先輩に薦められた本で男は船に乗って海の向こうに夢をも
つものだと思っていました」
「男はって云うのが男性にはあるんでしょうね」
「女性には女にはって無いんですか?」
「いや~どうでしょう?」

 つづく

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小説「イメージ4」No:94

イメージ No:94
 
 語り手は空に浮かぶ「雲」の私。
主人公は福賀(フクガ)貴義(キヨシ)3歳で両親を交通事故で失った孤児だ。
叔父に合気道を教わり自分に力を付け少林寺で少林拳と気功を身に付けた。

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 自然と親しみ、自然と会話が出来る。
1浪したが国立アート大学在学中に日本宣伝アート協会の会員に学生で初めて
なったし、国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞した。
その事が新聞で報じられ(株)雪月花の社長にスカウトされ入社し、社会人と
してスタートする。

「経営者会議の海さんからお電話です」
「つないでください」
「久し振り。青年部長」
「ご無沙汰しております。そろそろ伊東温泉でしょうか」
「それも良いんだが、あのアルミさんから誘いが来たんだよ」
「アルミの窓へのですか?」
「そうなんだよ。二人で出てほしいってな」
「ハハハハ。なるほど。そろそろありそうな誘いですね」
「そうかい?」
「以前。会長から私に話が来て其の繋がりって感じが残っていますから」
「そうか。なるほど。で、どうする?」

「会長さえ良ければ私は乗って良いです」
「そうか。じゃあOKだって返事するよ」
「はい。その後で伊東温泉にいきませんか?」
「良いね。背中の龍さんにも会いたいしな」
「有難うございます」

 そんな事があったと思い出した。
そう云えばあれは【アルミの窓】に出た後だったな。
じぶん党の山上に手伝いを頼まれて政界に関わって副総理になって当時党内最
大派閥の会長で総理を辞任した闇雲の贈収賄を摘発した時、福賀の替え玉をし
た彼は?今何処で何をして居るのだろう。
京都で福賀の替え玉が収賄している芝居を闇雲側に見せて、東京の赤坂で闇雲
が実際に収賄している証拠をつかんだ。
「彼ですか。京都の老舗旅館の娘さんと恋をして結婚して旅館を継いでいます」
そうだったか。

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「今は太っちゃって、私とは似ても似つかない大男になってます」
其れでは福賀の替え玉は居なくなった。
「私を騙る事があってはと心配されましたか?」
まあね。
「有難うございます」
ところで、経営者会議の海会長と【アルミの窓】出演の話はどうなった?
「其れなんですが、大変な事になりました。会長が話したのでしょう。伊東温泉
山海ホテルのホールで収録でどうだって?」
会長がか?
「はい、恐らく会長の悪戯心だと思うのですが。受けて立つのも良いかと」
そうか。まさかと思う相手の裏をとるか?
「そうです」

「アルミの窓のアルミさんからお電話です」
「つないでください」
「もしもし、アルミの窓のアルミです。お久し振りです。その節はお忙しいとこ
ろお付き合いいただき有難うございました。また、この度は経営者会議の海会長
さんにお願いしたお二人での出演をご承知いただき有難うございます」
「お久し振りです。又お世話になります。よろしくお願いします」
「あの~ぉ。海会長さんにご相談したところ伊東温泉・山海ホテルのホールが素
晴らしいから其方でどうかと云われました。【アルミの窓】始まって以来の局外
収録をさせていたくのですが・・・」
「会長から聞いています。OKです」
電話の向こうからビックリした空気が感じられる。

「あ・り・が・と・うございます。山海ホテルは福賀さんのエリアと海会長さん
から伺っています。何かお聞きして置く事がありましたら・・・打合せとか?」
「別にありません。当日本番で良いと思います」
「打合せ無し。当日ぶっつけ本番ですね」
「そうです」
「解りました。日程については?」
「会長と相談してご連絡します」
「よろしくお願いいたします」
フゥっと電話の向こうからため息が聞こえて来た。

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 片や経済界の大物、もう片方は業界で初めてスカウトされて大学から部長で
入社し、あれよあれよと驚きの中で総理大臣になって手話を使いながら所信表
明演説を原稿無しで行い、閣僚の一人がスキャンダルを図られ任命責任を問わ
れ責任を取って辞任、副総理に置いた松竹梅子を暫定だが日本では初めての女
性総理大臣にした福賀だ。
海会長も福賀社長も自分で日程を作れる二人だ。
【アルミの窓】出演の日程は直ぐ決まった。

「日程が決まりました。4月24日午後2時からライブで2時間如何ですか?」
「結構です。では其の日程と条件で2時にスタート出来るようにいたします」
どれだけ二人は悪戯っ子なんだろう。
どんな事になるのかクスクス笑いながら楽しがっているに違いない。

「アルミさん。出来るだけお二人のデーターを集めました」
【アルミの窓】のスタッフにとっては初めての局外収録、それもライブだ。
編集の楽しみは無くなったが緊張感は大きい。
スタッフもアルミも燃えないでは居られない。
「凄いわ。良くこんなに一杯データーを集められたわね」
「燃えていますから」
「私も」

 つづく


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小説「イメージ4」No:93

イメージ No:93

 現実は小説より奇なりと云われるが此の小説はフィクションだから現実より
も奇なりである。

 語り手は空に浮かぶ「雲」の私である。
主人公は福賀(フクガ)貴義(キヨシ)3歳で両親を交通事故で失った孤児だ。
なのに合気道九段で少林寺で修行して少林拳と気功は両方とも師範である。

 自然と親しみ、自然と会話が出来る。
1浪したが国立アート大学在学中に日本宣伝アート協会の会員に学生で初めてな
ったし、国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞した。
その事が新聞で報じられ(株)雪月花の社長にスカウトされる。
「それが最初から部長なんだから。現実よりは奇なりでしょう」
「そして福寿司の温泉一泊旅行になったのは専務になって直ぐでしたね」
「伊東温泉・山海ホテルの大浴場貸し切り」

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「それも気まぐれ突然ですから」
「色々な事が現実より奇なりですね」
「とうとう日本で初めて女性の内閣総理大臣を作ってしまったし」
「凄いですよ。全ての原発を凍結しましたね」
「米軍基地も全部失くして武器を持たない中立国を宣言した」
「世界の各国と不戦条約を結びましたね」

「凄い事ばかりやって来た。ミサイルで打って来たら売って来たところにUター
ンする仕掛けを開発し特許を取った」
「あれも凄い。人間冬眠。人口が増え過ぎたら部分的に交代で冬眠し合う」
「ご自分で冬眠第一号になった」

 山海ホテルの女将が久し振りの海辺と懐かしそうに話している。
「海辺さん。今度は社長付きの秘書さんですね」
「そうなんです。また度々伺うと思いますので宜しくお願いいたします」
「こちらこそ。同士ですもの宜しくです」
「私たちは社長になられてもフクガセンムです。会社では社長ですが」
「キキさん時々来てますよ。ちょうど今日もいらっしゃています」

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「やっぱり。何かそんな感じがしていました」
「そうでしょう。私たちエスパーですものね」
「そうです。あの松竹さんは?」
「勿論。フクガセンムのエスパーですよ」
「今日はやっぱり」
「お見えになってます」
「そうでしたか」
「集まりましたね」

「此れからですね」
「そうですね。此れからが大変です」
「緊張します」
「私もです」
女将が真剣な顔で応えた。
「後で集まって話しましょう」
「そうですね」
海辺も秘書ではない顔になっている。

「皆さん大広間に集まっていらっしゃいますから部屋割りをして来ます。貸し切
りを決めて、お風呂から上がったら宴会場へ、フクガセンムのカッポレと奴さん
のおさらい、其の後に集まりましょう」
「今は暫定総理ですから次の総選挙で正式に総理大臣になってもらわなければ」
「本番に向けてですね」
「では後ほど」

「皆さん。大浴場男風呂と女風呂30分貸し切りにします。ご希望の方には貸し
切り券を渡しますから取りに来てください」
何なに貸し切り券だと?といぶかる初めての客に福寿司の大将と女将が説明をし
ている。
「へ~ぇそうなんですか。そいつは貸し切りで入らなけりゃなるまい」
「そうなんですか。其れは貴重な体験です。是非お願いします」
って初めて参加の女性客も貸し切り券をもらいに行く。

 割り当てられた部屋に夫々入室して貸し切りの時間が来るのを待っている。
先ずは男性の貸し切り時間が知らされる。
「こんな事は福寿司さんだから出来るんだよ。他のお客さんでは中々出来ません
から有難いです」
「其れはそうなんだけど,そこで優越感を持っちゃいけませんよ」
「大丈夫ですよ大将。感謝もし、申し訳ないとも思ってますから」
「まあね。実のところ皆さんって云うより福さんの希望でって事だからね」

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「あぁ見えても福さんは照れ屋だからね。其のうえ口下手って来てるんで皆に話
すより一緒に入った方が良いんだね」
「裸の付き合いでしょう。私らと仲良くしたいって寸法だ」
「そうだね。コミュニケーションってやつだね」
「意外ですね。国会で手話を使って原稿無し2時間の所信表明演説をした人が話
下手って本当ですか?」
「本当なんだよ。店に来て寿司を食べていても殆ど話をしない。久保田の萬壽が
好きでね。ちびりちびり呑んで、あっしが握った寿司をつまんではニコニコして
るだけなんだから」

「そうですね。私が伺った時もフクガセンムがしゃべって居るの見た事ないです」
「もっとも、来たら直ぐ温泉一泊旅行になるからね」
「あの温泉で背中の龍を泳がせる姿が全てを語っているんでしょう」
「それは私たちも納得ですが・・・」
「なにせ、外ではやる事をしっかりやってるから不思議だよな」
「これからも楽しみですね大将」
「そうだな。此れから何をやらかすか興味津々だな。本当は危険が一杯で心配な
んだけどな。本人も其れは解っているだろ」
「そうでしょうね。今までの政治家が出来なかった事や行わなかった事を全部や
って来てますからね」

「どんなに憎んでいるか。筋違いですがね。恨んでいるでしょう」
「色んな人や組織に狙われてもいるでしょう」
「多分ね」

 つづく

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小説「イメージ4」No:92

イメージ No:92
語り手 空に浮かぶ「雲」の私
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)

 春の株主総会は期待されていた福賀貴義新社長の就任報告が承認された後、
閉会の動議が出され、賛成多数で採択されパーティ会場に移った。
やっと帰って来た福賀に男女の株主たちが群がって何とか話を聞き出そうと
ワイワイガヤガヤお祭りのような騒ぎになっている。
福賀は落ち着いたものでニコニコしながら丁寧に対応して株主総会を閉じた。
外にはやっと8分咲の桜が夫々の存在を示していた。

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 社長室に帰って福賀は秘書室に電話した。
「海辺さん。銀座の福寿司さん6時半二人予約入れてください」
「はい。接待ですか?」
「そうです。また海辺さんに色々お世話になるので改めてお願いしたい事も
あります。如何ですか?」
「はい。大丈夫です。6時過ぎにお店の方に行くようにします」
「よろしく」

「えらっしゃい!」
「雪月花の海辺さんでしたね。お久し振り」
福寿司の大将と女将が優しく海辺を迎えてくれた。
「福賀副社長が社長になられて又私が秘書に付きました」
「そうでしたか。とうとう福さん社長になりましたか」
「月下さんもこれで安心ですね」
「そうだと思います」
「海辺さんも大変なお役目でしょうけど、また此処に来てもらえる回数も増
えて私たちは嬉しいですよ」
「福さんは雪月花に入ってから出たり入ったり忙しく動いていたからね」
「今度は落ち着いていただけると良いのですが」」
「そうですね。でもどうかな~?」

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「えらっしゃい!お~福さんだ」
「いらっしゃいませ。とうとう社長さんだそうで。おめでとうございます」
「有難うございます。皆さんのお陰です。此れからも宜しくお願いします」
「こちらこそです」
女将が福賀の定席カウンターの一番端へ久保田の萬壽とお茶を運んで来た。
「福さん。良いんだね」
「宜しく」

「さ~ぁ。今日は突然だけど店の温泉一泊旅行になりやした。一緒に行きた
い人は付いて来て良いよ。行けない人は残念代で今日の代金は無しだ」
女将が外に出て灯りを消し、のれんを店の中に入れた。
二か所に電話を入れる。
「あれになったので・・・」
「いつも突然でごめんなさい」

 大将が心配そうに伺っている。
「両方OKです」
「さ~行く人は心配かけないように連絡して」
女将が行く人の連絡先と電話番号を書き込むメモ用紙を渡して回る。
常連客は良い日に来たと大喜び。
連れはどうなってるのか聞いて自宅に電話している。
「今日は当たりなんだよ。なかなかない機会なんだよ。おみやげ沢山持って
帰るから。そう。よろしく」
「もしもし。福寿司さんから。お店の旅行に一緒に行く事になりました。何
でって又とない機会だから。こないだ行った?そうだっけ。又行ってきます。
よろしく」

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「毎度有難うございます。東西観光です。バスが着きましたのであ店のお客さ
んから乗ってください。それからお店の方と、最後に社長と、おや?海辺さん
お久し振りです。うちの社長が雪月花の社長に、それで又、秘書さんに、そう
でしたか。さ、どうぞお乗りください。私の後は特等席。社長は窓際、海辺さ
んは通路側。はい、出発します」
いつものように福寿司の温泉一泊旅行ご一行を乗せてバスは取締役の車の運転
で伊東温泉・山海ホテルに向かって走り出した。

 東西観光は以前、観光会社にバスと運転手と添乗員を貸し出すバス会社だっ
たが運営が危なくなっていて福賀に助けを求め福寿司恒例のバス旅行に社長が
便乗して来た時に山谷が企画した世界グルメツアーを福賀に話した。
東西観光バス会社の救済を頼まれ社長になった福賀が(株)東西観光にして、
山谷の企画を採り上げて世界グルメツアー部を作り山谷を部長にした。
今、山谷は福賀の元で副社長をしている。
運転をしている車は車両部の係長だったが今は常務取締役になっている。

「皆様、本日は当東西観光をご利用いただき有難うございます。このご旅行は
私が入社する前から行われていたようです。何も知らない私は世界グルメツア
ーの企画案を作りアピールして回りましたが誰も聞いてくれませんでした。後
で解ったのですが、会社は明日をも知れない危機にあったのでした。たまたま
添乗員として乗り合わせた此の福寿司さんの温泉一泊旅行でした。スポンサー
が雪月花の福賀専務さんと聞いて世界グルメツアーの企画案を聞いていただき
ました。同乗してきた前社長は福賀専務に会社の救済を頼みに来ていたのでし
た。会社は福賀専務さんが社長を引き受けて立て直すことになり、私が企画し
た【世界グルメツアー」を主要の業務にして株式会社東西観光を発足されまし
た。其の時私は未だ19歳でしたが世界グルメツアー部の部長にされました。
私が部長なんて無理ですと抗議しましたが、貴女が考えたものを誰が出来ます
か出来るのは貴方だけです。思いのままにやってください。困ったら私が助け
ますって云われてしまいました」

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「そうだったんだ」
「嬉しかったと思うけど大変だったでしょう」
「19歳で部長はきついよね」
「貴女の企画を聞いていなければ福さんも社長を引き受けなかったと思うよ」
「そうですよね」
福賀は黙って聞いている。
「其れからもう一つ。今運転している車も係長から部長になりました。福賀社
長は社長として会社に入る前に研修生の振りをして車両部に行きました。其処
で車係長に会います。運転免許を持ってるか聞かれた社長は大型二種免許を持
ってると答えると運転して見せてくれと云ってお得意様の社員旅行の運転をさ
せたそうですが其の運転がお得意様に絶賛されてしまいます。車も研修生の運
転を只物ではないと認めていて車両部に誘ったそうですがその場は総務部に呼
ばれているのでと云われ、その直ぐ後に車も総務部に呼ばれ明日から部長にと
社長が辞令を書いて行かれたと云われたそうです」

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「福さんは部長が好きなのかな?」
「まさか?」
「それは冗談だけど、そんな無謀な事をする人を係長から部長にしましたね。
私には全く考えられません」
「それだけの何かがあったのでは?」
「その係長から部長になった人が今は常務取締役です。新入社員で部長にさせ
られた私も今は副社長ですから笑っちゃうでしょう」
どっと笑いが起こった。
「福さん自身、大学から部長で入社して4年で専務、2年後に副総理、そして
総理大臣だったんだから」
「なるほど」
「ところで東西観光の運転手さんは皆さんこうなんですか?」
「気が付かれました?」
「何とも言えない心地よさ」
「そうです。福賀社長仕込みのノーマル・ドライビングが我が社の売りになっ
ていて好評です」
「福さん。どうして無謀な事を要求した人が部長になったか教えてよ」
「素直で率直だからです」
「そうか。云えてるね。素直が一番。率直って素晴らしい」
「でしょう大将」
「そうだね。うちらもそうだもんな福さん」

 伊東温泉・山海ホテルに着きました。
「お待ちしていました。福寿司ご一行様どうぞ。先ずは大広間の方へ。あれ?
海辺さん、お久し振り」

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 つづく

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