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小説「イメージ4」No:95

イメージ No:95

 この物語はフィクションであり現実のようで現実ではない。
現実は様々な他力の規制で成り立っており、ある所では一つの思想によって規
制され又ある所では金と権力で社会が作られている。
 
 昔々ある所の社会は女性を頂点に置いた時代があった。
しかし、やがて其の時代も男性が殺し合いで社会を支配するようになった。
人と人が殺し合う弱肉強食こそ男性社会の本質である。
 
 フィクションでは肉体的な力や武器で支配する男性社会とは違う女性社会が
自然を愛するイメージのなかで成立する。
其れが此の物語の主人公・福賀(フクガ)貴義(キヨシ)のイメージである。

 語り手は空に浮かぶ【雲】の私。

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 自然の造形は実に素晴らしい。
植物にしても魚にしても動物にしても生き物に全く同じものはない。
夫々に違いを持たせて造られている。
しかし、其の違いにも非常に厳しい違いを造って私たちに試練を与えている。

 見えたり見えなかったり聴こえたり聴こえなかったり等、視覚・聴覚・触覚
・味覚・嗅覚の五感の違い。
また五感とは別に身体的な能力や思考に関係する知的能力の違い。
その全てを持たずに生まれてくる事もある。

 それらの一つを失っても不自由である。
故に誰もが生まれてくる子に願う五体満足などは奇跡であって恵まれ過ぎであ
る。
其れでも一応一通り持ち合わせていると更に豊かさや便利さを望んでしまう。

 さて、そんな事を心の中に持ち続けている福賀貴義は3歳の時に交通事故で
失った両親から恵まれた五感と優れた知的能力を受け継いでいる。
叔父に引き取られたとは云え本来は孤児だ。
精神的にどれ程のダメージを受けているか解らない。
救いは合気道五段の叔父と住まいの近くに広がる砂浜と打ち寄せる波が広がる
海と親しみ会話が出来るようになった事だろう。

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 XZ東京テレビ【アルミの窓】のMC山中アルミと制作スタッフ達が伊東温泉
・山海ホテルのホールに集まっている。
いつもは局のスタジオで行うのだが福賀と海の希望で初めの局外収録。
其れもライブだ。

 会場は1階フロントに繋がるロビーのホールだ。
ホールの外から向かって左側に広い壁面、そこには大きなタペストリーが飾っ
てある。
其の壁面の前に二つの椅子が左側に向かって右側にMCアルミの椅子が置かれ
ている。

 その向かい側に3台のカメラが構えている。
勿論、前もって山海ホテルをアルミとディレクターそしてカメラマン其の他の
スタッフが現場を確認と女将との当日の打ち合わせを済ませている。
ホールの配置設定と一部のスペースを観客用に用意する。
あたかも其処に局のスタジオが移ったように。
出来ればライブの様子は夫々部屋のテレビで観てくれるようにと女将にお願い。

 昼食はどうするか女将がアルミに聞いて来た。
「みんなどうする?」
アルミがスタッフに聞く。
「終わってからで良いのでは?」
ディレクターがスタッフに問う。
「終わってからで良いです」
スタッフから元気な気持ちが跳ね返って来た。

 13時を過ぎて入念なチェックが行われていく。
外に動きがあった。
2階のバルコニーで見ていたスタッフから連絡が入った。
福賀の愛車、白のポルシェが着いたと。
玄関を入る二人を手持ちカメラが撮る丁度14時ぴったりだ。 
入ったところで二人は女将と挨拶を交わしてホールに向かった。

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 ホールに入った福賀が手話でアルミに挨拶をした。
それを受けたアルミは自分が大事な事を忘れていた事に気付いて硬直してし
まった。
すかさず福賀がカバーする。
「当日ぶっつけ本番のライブでとお願いしたのは私の方でして事前の打ち合わ
せも無しにしていただいたので今日は私が手話通訳をさせていただきます。先
ず椅子の配置ですが・・・私が真ん中でお二人と自分の会話を手話でします」

 ライブですからその場で椅子の配置をスタッフが直して夫々の位置が決定。
こんな事は【アルミの窓】始まって以来の事でアルミは黙って立っていた。
何か今日のMCは福賀になってしまったようだ。
夫々の位置はタペストリーが掛かった壁面を背に中央に福賀。
左側に海会長そして右端にアルミが向き合う形になった。

「良い訳になりますが、いつもは局の【アルミの窓】ようのスタジオを使って
収録した後に編集で音の代わりに文字を入れていましたから・・・申し訳あり
ませんでした」
中央に座っている福賀が手話でアルミの謝罪を通訳する。
「いや。私は何も考えていませんでした。流石に福賀君は状況を把握していた
ようだ。あの総理所信表明演説を思いだしたよ」

「手話通訳士のようには出来ませんから時間が掛かりますが2時間在りますの
で頑張ります」
勿論自分の発言も手話で。

「有難うございます。では福賀さんに手話通訳をお願いして【アルミの窓】を
始めます。実は今日で500回になります。これも皆様のお陰と心から感謝し
ております」

ホールに用意された客席から大きな拍手が挙がった。

「片や日本の経済を守っておられる経営者会議の海会長さんと前総理として日
本で初めて女性の内閣総理大臣を作られた今は株式会社雪月花の福賀社長さん
にご無理をお願いしてお越しいただきました」

「私は二度目になります。多くの人たちに支持されている【アルミの窓】に出
させていただき、それも記念になる500回に呼んでいただき光栄に思ってい
ます」

「私も会長と同じ気持ちです。今日は日程も条件も自由に決めさせえていただ
き申し訳なく思っています。呼んで良かったと喜んでいただけるように頑張り
たいと思っています」

「前回は海会長さんから日本の経済について色々お話を伺う事が出来て大変勉
強になりました。今日は堅い世界から柔らかい世界を覗かせえていただければ

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と思っています」

「そうですか。柔らかい世界の私ですか。頑張りましょう」
「それから福賀さんですが・・・」
「私の柔らかい世界ですか?」
「はい。前回の時に海会長さんが福賀さんの柔らかさに驚かれたと伺っていま
すので」
「会長が頑張りると仰っていては頑張らない訳に行きません」

「先輩を置いては進めませんので海会長さんにお聞きします」
「来ましたね。何でしょう?」
「今は株式会社海船舶の会長さんでいらっしゃる」
「そうです。代々船の会社ですから」
「代々ですと・・・あの有名な回線問屋の?」
「前回はそう云う話はしなかったね。そうです・その前は水軍だったりして」
「村上水軍の流れだったりします?」
「しますね」

「なんと、歴史をたどるようで興味津々です」
「北前船は主に日本海沿岸にところどころに拠点を置きましたから」
「今でも其の実態は生きて居るんですか?」
「生きてないと云えば噓になりますね」
「海会長さんは日本海と太平洋を駆け巡る正に海の男ですね」

「日本は島国ですからね。国から出るには海か空でしょう」
「そうですね。今は直ぐ上を見てしまいますが」
「飛行機ね。だけど重い物とか、大きな物は空は無理です。
「重機とか身近な物では石油が一番解り易いですね」
「そうですね。タンカーですか」
「そうですね。でも私のところでは漁船もヨットも扱っていますよ」
「お魚ですね。身近です」
「アルミさん。お魚好きですか?」
「お魚大好きです」
「肉は?」
「肉も大好きです」

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「生き物は寝かせえて運ぶわけにはいきません」
「そうですね。お魚は冷凍に出来るでしょう。でも牛とか馬はだめですね」
「船の燃料は?」
「石油ですね」
「電気かと思いまいした」
「電気も使いますよ。でも石油が主力です。飛行機も石油で飛びますが」
「石油って大事なんですね」
「そうです。石油をエネルギーに変えて走ったり飛んだりしています。昔、日
本が最後の戦争をした理由にしているのがアメリカが日本の石油輸入ルートを
全部抑えたからと云っています」
「当時、日本の海軍はアメリカより充実していたと聞いています」
「それは事実でしょう。アメリカは陸地が広いから島とは云えない。日本の陸
地面積は狭いから海に囲まれた島ですね」
「島国ですね」

「ヨットいいですよ」
「会長さんはヨット持っていらっしゃる?」
「大したヨットじゃありませんが一応持っていますよ」
「海に船。ロマンティックですね」
「まぁね(笑)」
「一度乗せていただきたいです」
「良いですよ。でも、海はいつも優しいとは限りませんよ」
「そうですね。荒れたり、海賊に出会ったり怖い事もあるんでしょう」
「ありますね。それを知っておくことが大切ですね。私は子供の頃から男の子
は船に乗って海の向こうに出て行けと父親に云われたものです。男はと云うと
福賀君に笑われますが」
「いや。私も大学の先輩に薦められた本で男は船に乗って海の向こうに夢をも
つものだと思っていました」
「男はって云うのが男性にはあるんでしょうね」
「女性には女にはって無いんですか?」
「いや~どうでしょう?」

 つづく

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