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小説「イメージ4」No:92

イメージ No:92
語り手 空に浮かぶ「雲」の私
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)

 春の株主総会は期待されていた福賀貴義新社長の就任報告が承認された後、
閉会の動議が出され、賛成多数で採択されパーティ会場に移った。
やっと帰って来た福賀に男女の株主たちが群がって何とか話を聞き出そうと
ワイワイガヤガヤお祭りのような騒ぎになっている。
福賀は落ち着いたものでニコニコしながら丁寧に対応して株主総会を閉じた。
外にはやっと8分咲の桜が夫々の存在を示していた。

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 社長室に帰って福賀は秘書室に電話した。
「海辺さん。銀座の福寿司さん6時半二人予約入れてください」
「はい。接待ですか?」
「そうです。また海辺さんに色々お世話になるので改めてお願いしたい事も
あります。如何ですか?」
「はい。大丈夫です。6時過ぎにお店の方に行くようにします」
「よろしく」

「えらっしゃい!」
「雪月花の海辺さんでしたね。お久し振り」
福寿司の大将と女将が優しく海辺を迎えてくれた。
「福賀副社長が社長になられて又私が秘書に付きました」
「そうでしたか。とうとう福さん社長になりましたか」
「月下さんもこれで安心ですね」
「そうだと思います」
「海辺さんも大変なお役目でしょうけど、また此処に来てもらえる回数も増
えて私たちは嬉しいですよ」
「福さんは雪月花に入ってから出たり入ったり忙しく動いていたからね」
「今度は落ち着いていただけると良いのですが」」
「そうですね。でもどうかな~?」

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「えらっしゃい!お~福さんだ」
「いらっしゃいませ。とうとう社長さんだそうで。おめでとうございます」
「有難うございます。皆さんのお陰です。此れからも宜しくお願いします」
「こちらこそです」
女将が福賀の定席カウンターの一番端へ久保田の萬壽とお茶を運んで来た。
「福さん。良いんだね」
「宜しく」

「さ~ぁ。今日は突然だけど店の温泉一泊旅行になりやした。一緒に行きた
い人は付いて来て良いよ。行けない人は残念代で今日の代金は無しだ」
女将が外に出て灯りを消し、のれんを店の中に入れた。
二か所に電話を入れる。
「あれになったので・・・」
「いつも突然でごめんなさい」

 大将が心配そうに伺っている。
「両方OKです」
「さ~行く人は心配かけないように連絡して」
女将が行く人の連絡先と電話番号を書き込むメモ用紙を渡して回る。
常連客は良い日に来たと大喜び。
連れはどうなってるのか聞いて自宅に電話している。
「今日は当たりなんだよ。なかなかない機会なんだよ。おみやげ沢山持って
帰るから。そう。よろしく」
「もしもし。福寿司さんから。お店の旅行に一緒に行く事になりました。何
でって又とない機会だから。こないだ行った?そうだっけ。又行ってきます。
よろしく」

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「毎度有難うございます。東西観光です。バスが着きましたのであ店のお客さ
んから乗ってください。それからお店の方と、最後に社長と、おや?海辺さん
お久し振りです。うちの社長が雪月花の社長に、それで又、秘書さんに、そう
でしたか。さ、どうぞお乗りください。私の後は特等席。社長は窓際、海辺さ
んは通路側。はい、出発します」
いつものように福寿司の温泉一泊旅行ご一行を乗せてバスは取締役の車の運転
で伊東温泉・山海ホテルに向かって走り出した。

 東西観光は以前、観光会社にバスと運転手と添乗員を貸し出すバス会社だっ
たが運営が危なくなっていて福賀に助けを求め福寿司恒例のバス旅行に社長が
便乗して来た時に山谷が企画した世界グルメツアーを福賀に話した。
東西観光バス会社の救済を頼まれ社長になった福賀が(株)東西観光にして、
山谷の企画を採り上げて世界グルメツアー部を作り山谷を部長にした。
今、山谷は福賀の元で副社長をしている。
運転をしている車は車両部の係長だったが今は常務取締役になっている。

「皆様、本日は当東西観光をご利用いただき有難うございます。このご旅行は
私が入社する前から行われていたようです。何も知らない私は世界グルメツア
ーの企画案を作りアピールして回りましたが誰も聞いてくれませんでした。後
で解ったのですが、会社は明日をも知れない危機にあったのでした。たまたま
添乗員として乗り合わせた此の福寿司さんの温泉一泊旅行でした。スポンサー
が雪月花の福賀専務さんと聞いて世界グルメツアーの企画案を聞いていただき
ました。同乗してきた前社長は福賀専務に会社の救済を頼みに来ていたのでし
た。会社は福賀専務さんが社長を引き受けて立て直すことになり、私が企画し
た【世界グルメツアー」を主要の業務にして株式会社東西観光を発足されまし
た。其の時私は未だ19歳でしたが世界グルメツアー部の部長にされました。
私が部長なんて無理ですと抗議しましたが、貴女が考えたものを誰が出来ます
か出来るのは貴方だけです。思いのままにやってください。困ったら私が助け
ますって云われてしまいました」

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「そうだったんだ」
「嬉しかったと思うけど大変だったでしょう」
「19歳で部長はきついよね」
「貴女の企画を聞いていなければ福さんも社長を引き受けなかったと思うよ」
「そうですよね」
福賀は黙って聞いている。
「其れからもう一つ。今運転している車も係長から部長になりました。福賀社
長は社長として会社に入る前に研修生の振りをして車両部に行きました。其処
で車係長に会います。運転免許を持ってるか聞かれた社長は大型二種免許を持
ってると答えると運転して見せてくれと云ってお得意様の社員旅行の運転をさ
せたそうですが其の運転がお得意様に絶賛されてしまいます。車も研修生の運
転を只物ではないと認めていて車両部に誘ったそうですがその場は総務部に呼
ばれているのでと云われ、その直ぐ後に車も総務部に呼ばれ明日から部長にと
社長が辞令を書いて行かれたと云われたそうです」

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「福さんは部長が好きなのかな?」
「まさか?」
「それは冗談だけど、そんな無謀な事をする人を係長から部長にしましたね。
私には全く考えられません」
「それだけの何かがあったのでは?」
「その係長から部長になった人が今は常務取締役です。新入社員で部長にさせ
られた私も今は副社長ですから笑っちゃうでしょう」
どっと笑いが起こった。
「福さん自身、大学から部長で入社して4年で専務、2年後に副総理、そして
総理大臣だったんだから」
「なるほど」
「ところで東西観光の運転手さんは皆さんこうなんですか?」
「気が付かれました?」
「何とも言えない心地よさ」
「そうです。福賀社長仕込みのノーマル・ドライビングが我が社の売りになっ
ていて好評です」
「福さん。どうして無謀な事を要求した人が部長になったか教えてよ」
「素直で率直だからです」
「そうか。云えてるね。素直が一番。率直って素晴らしい」
「でしょう大将」
「そうだね。うちらもそうだもんな福さん」

 伊東温泉・山海ホテルに着きました。
「お待ちしていました。福寿司ご一行様どうぞ。先ずは大広間の方へ。あれ?
海辺さん、お久し振り」

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 つづく

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