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小説「イメージ4」No:99

イメージ No:99

 現実の様で現実ではない風景をフィクションで描いている。
主人公は福賀(フクガ)貴義(キヨシ)
語り手は空に浮かぶ雲の私。
彼と親しくなって話すようになったのは何時頃からだったか。
そうだ。
彼が3歳の時に両親を交通事故で失て、叔父の家に引き取られ、毎日のように
合気道の指導を受け始めた頃だったと思う。
中学校の教師だった叔父が出勤して帰って来る間、彼は近くの浜辺に出て海を
眺めていた。

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 そんな彼に私が話しかけたのが会話の始まりだった。
「海が好きかい?」
「好きです」
彼は即座に答えたね。
「どこが?」
「波がみんな違うし・・・」
「それから?」
「何処までも広がっていて・・・」

 貴義が中学から高校に進む時に叔父は技術を身につけていた方が良いと工業
高校への進学を薦めた。
其の頃すでに貴義は自然との繋がりを強くしていて絵を描くことに没頭してた。
高校3年の時に担任から国立アート大学への進学を薦められ挑戦する。
一浪して次の挑戦で合格美術学部でグラフィック・デザインを専攻する。
両親から受け継いたであろう無形の財産の発掘に向かった。
そして彼は我武者羅にそして貧欲に睡眠時間以外の時間を自力を付ける事に使い
大学に民間の会社から来るデザインの懸賞募集に応募して特賞採用を繰り返した。

「少しお時間を戴けませんか?」
五代目彫辰に声を掛けられたのは大学3年の桜の花が散ってしまった頃だった。
「六代目を継ぐなんて何で僕なんかに。出来る訳ありません。お断わりします」
断っても断っても彫辰は付いて来て離れない。
「どうしても貴方でなければ駄目なんです」
とうとう土下座して、その前に匕首を置いて頼まれてしまった。
この人断ったら死ぬ。
人の命には替えられない。
「解りました」
とうとう承知してしまった福賀だった。
おまけにお守りだと背中に日本の刺青代表的な図柄の昇り龍桜の花弁を彫られ
た。

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 3年連続で日本宣伝アート連盟主催の公募展特選受賞で学生で初めての会員
推挙と同じ頃に国際アート・フェスティバルに出品してた作品がグランプリを
受賞して新聞に大きく記事になった。
「ナミカがお付き合いをいただいていて幸いでした」
(株)雪月花の社長・月下から業界で初めてのスカウトされ部長で入社が決ま
った。
其の時に福賀が出した条件は7項目だった。
1-入社前に社名を雪月花石鹸株式会社から株式会社雪月花に変更すること。
2-入社前に化粧品部門を新設すること・
3-入社前に化粧品開発プロジェクトを作ること。
4-化粧品宣伝部・部長として入社させること。
5-化粧品に関係した部署のトータル・マネージャーとすること。
6-社名変更の正月元旦号新聞広告(2ぺーじ見開き)に新部門と私の紹介を
  入れる。
7-社内外を問わず自由に行動が出来ること。
月下は此の条件を全て受け入れて承認したが、福賀入社は社内は勿論、家族に
も内密に扱われた。

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「社長。福賀貴義と云う人物の新聞記事ご覧になりました?」
当時社内の役員も目に止ていて聞かれた。
「私も見ましたよ」
「大変な逸材のようです。うちに欲しいですね」
「そうですね。私もそう思って知人を通してコンタクト取りました」
「そうですか。流石ですね。で如何でした?」
「先輩を通して23社からオファーを受けているいると云っていました」
「そんなにですか。それは無理ですね」
「それで彼は自分のデザイン・スタジオを持つことにしたと云っていました」
「そうでしたか。残念ですが仕方ないですね」
「クライアントとして宜しくと云われました」
「何処の会社にも行かれないだけダメージに繋がらなくて良かったです」

 月下は事実を隠して社員を裏切ったことが辛かった。
早く福賀の入社が知らせられる時が来てほしいと願うばかりだった。
福賀貴義が両親から受け継いたであろう無形の財産を発掘して身につけた力は
次から次へと発揮され、彼のイメージは形になって来たのだ。
3歳で両親を失った孤児の福賀貴義。
自然を愛し、本物思考で大の温泉好き。
またしても一人で福寿司ののれんをくぐった。
「えらっしゃい」
「大将の元気は変わりませんね」
「お~い。変なのが入って来たよ」
「あいよ」
女将さんがニコニコとのれんを取り込みに走る。
「て訳で此れから福寿司の温泉一泊旅行ってことになっちゃったよ」
盆と正月が一緒に来たように常連客は盛り上がっている。
「フクガセンムようこそ福寿司へ」
「おいおい其れはあっしが云うセリフじゃねいか。女将どうだった?」
「両方ともOKですよ」

 つづく

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小説「イメージ4」No:98

イメージ No:98

 テレビ番組【アルミの窓】500回の出演依頼を受けた経営者会議の海会長と
(株)雪月花の福賀社長は生放送を希望した。
それも伊東温泉・山海ホテルでのライブだ。
【アルミの窓】のMC中山アルミとスタッフは其の申し出を受けて初めてのライブ
放送が行われ無事終了した。

 ホテル内の福賀の部屋のパソコンに国連事務局からメールが入っていた。
総長からだった。
数日後、福賀は国連本部に居た。
「福賀さん。大国の拒否権を廃止したいのですが・・・」
「総長として提案して多数決で廃止されたら良いと思います」
「その為の根回しをお願いします」
「了解しました」

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 次の日福賀はフランスのパリに居た。
アラブ系王国の王子が福賀に無償で使わせてくれるアトリエに各国の高官
が集まっていた。
国連の総会が開かれたのは其の数日後だった。
「権利は平等である事が望ましい」
福賀はゲストとして世界共通の手話を使いながら語っていた。

「特権を廃止し平等の権利を持ち合う案を提出して賛否をいただきます」
「賛成多数により特権は廃止され平等の権利を持ち合う案が決定しました」

 福賀のスマホに突然【緊急通報】が出て使えなくなったが。ロックされた
時の解除用パスワードを打ち込んで使えるようになった。
「今は正常ですか?」
「正常とは言えませんが、使えます」
「お店に行かなくて大丈夫ですか?」
「使えるから良いでしょう」

「便利なモノも故障すると不便なモノになりますね」
「使えたものが使えなくなると不便さが解ります」
「文明の利器に頼り過ぎは問題では?」
「必要なものは何事にもバランスでしょうか?」
「そうですね。文明と文化。必要なのはバランスですね」
「福寿司の大将。どうですか?」

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「昔って今よりずっと不便で不自由だったね」
「そうですよ。食べるモノも着るモノも今よりずっと少なかった」
「それでも今みたいに人が歩く前を態々回り込んで横切るって事はしなかっ
た」
「そうですね。それは感じます」
「何故でしょうかね?」
「多分、昔と今では人間の脳の細胞に変化が起こってる。そんな感じがして
ます」

「それは文化の方ではなく科学の方に関係あるんと違うかな?」
「科学の進歩の代償でしょうか?」
「便利さの追求が脳細胞に変化を?」
「不自由不便を嫌でも持ち合わせてる人が居る事を心に止めもせず」
「私も偉そうな事を云えませんが・・・それでも何処までも限りなく便利さを求め
続けるのは如何かと思います」

「それと自己顕示欲が強くなっていますね」
「だから、脳細胞が人の前に前にと働くのでしょうか?」
「嫌だね!」
「でも、これは治りそうもありませんよ」
「人に痛い思いをさせたくない人を増やす以外に方法はありませんか?」
「そうですね。その前に人間が退化して亡くならなければ良いのですが」

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「自然を汚し、自分も汚染して消滅して行くのだろうか?」
「気象状況は益々変化して異常さを増しています」
「穏やかで優しい自然があって私たちが生きていられるのに・・・」
「よりよい環境が大事ですが・・・フクガセンム?」
「深刻な状況ですが出来る限りよりよい環境づくりを進めたい。退化より進化の方
向へ。頑張るしかありません」

「そうだ。偽物を楽しんでるのも気になります」
「そっくりさんなんて偽物でしょう」
「その辺も脳細胞の変化につながるのでは?」
「本物も本物だ。自分の偽物を許してるのが問題でしょう」
「絵の世界でも贋作者が居ますが見つかれば罰せられます」
「当然です」
「その辺は文化の領域では?」
「そうですね。文化もしっかりしなければ世界に笑われます」
「本当の価値は本物に在り。ですね」
「その精神を蔑ろにしてはいけません」

 つづく 

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小説「イメージ4」No:97

イメージ No:97

 テレビ番組【アルミの窓】のMC中山アルミから出演を依頼され経営者会
議の海会長と(株)雪月花社長福賀はライブでの収録を希望した。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番が伊東温泉・山海ホテルで行われてい
るところだ。
スタッフの事前調査で資料を集め福賀が念力を使えると解ったのでアルミが
自分に掛けてほしいと頼んだ。

「では」
福賀はアルミの目を見て息を詰めている。
或る現象が瞬時に起こった。
アルミの目が閉じられ身体が硬直したように見えて浮き上がった。
直立した身体が僅かな高さに浮遊しながら海会長の方に進んで行く。
3メートル離れていた位置を2メートル移動したところで止まり床に降りた。
福賀が何か韻を切るような仕草をした時アルミが元に戻った。

「あれっ!」
何が自分に起こったか解らないようで唖然としていたが其処はMC我に返って
スタッフに自分が福賀の念力にかかった映像を画面に出してもらった。
「全く覚えがありません。私が座った状態から立ち上がって空中を2メートル
移動した。その映像は恐らく世界でも初めてではないでしょうか?」
「さ~それは解りません」
「有難うございます。恥ずかしい事が起こらなくてホッとしました」
「私も此れは初めてで、宙に浮きながら私の方にアルミさんがやって来るので
どうしたら良いかと思いましたよ。いつの間にこんな術を身につけたのか?」
「それは会長、私のシークレットです」
と云いながら福賀が動いた。
ディレクターがアルミをうながす。
事前の打ち合わせ無しのぶっつけ本番だから福賀の動き次第なのだ。

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 福賀が海会長を誘ってエレベーターの方に歩いて行く。
其れをアルミとスタッフが追って行く。
女将が機材運搬用のエレベーターにカメラスタッフを誘導する。
客用のエレベーターには海会長と福賀そしてアルミとディレクターだ。
エレベーターは5階に止まった。
其処にはスイート・ルームが5室と宴会場がある。
リニューアルの時に福賀が頼んだ檜造りの舞台がある。
福賀は既に浴衣に着替えて檜舞台の上にいた。
舞台の脇には伊東の芸妓連が待ち構えている。

「海外で日本の文化を紹介する時に観てほしいと或る宗家にお願いして奴さん
とカッポレを習いました。其れを時々此処でおさらいをしています」
三味線が弾かれ歌が流れると福賀の身体が自然に動き出した。
ライブだから。
大学は美術学部で専攻はグラフィック・デザイン。
でもね。
彼は合気道九段、少林拳師範と気功術師範でもあるのだから。

 二曲を踊って舞台を降り、芸妓衆に礼を言ってエレベーターの方に移動だ。
福賀が決めたライブだから彼を追うしか方法がない。
降りたところは山海ホテル内の福賀の自室。
其れも海外との連絡などに使うパソコン3台の仕事部屋とアトリエ兼寝室更に
其の二部屋には外側に温泉露天風呂が付いている。
海会長も用意された浴衣に着替えていたが・・・。
「会長、先に湯船に浸かっていてくれませんか。後から行きます」
「あいよ」
男だけってことは無くなるだろうけど。
此れが男の裸の付き合いってものなんだね。

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 以心伝心とかツーと云えばカー。
ひょっとすると海会長も福賀のエスパーなのかも知れない。
もう手話はいらない。
映像が全て語ってくれるから。
海会長が湯船に浸った頃合いを見計らって福賀が露天風呂に入っていく。
福賀の後ろ姿が写される。

 五代目名人彫辰の昇り龍と桜吹雪が綺麗だ。
アルミが一瞬目を閉じたが、直ぐ大きく開き直った。
流石だ。
寸時に覚悟を決めたらしい。
辞めさせえられても仕方がない。
はっきり見た。
福賀は右手に手拭を下げて素のままの姿だ。

 海会長の右側を回って一瞬前を隠した。
そして一度首まで浸かったが少しして腰まで身体を湯面から出して泳ぎ始めた。
背中の龍が波立てて生きているようだ。
カメラがその絵を撮る。
海会長と福賀が湯船から上がろうとする。
カメラは外に見える漁火を眺めるように撮り続けていた。

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 エレベーターは1階に降りてタペストリーが掛かっているホールに戻った。
途中にCMを挟み、ディレクターが巧みに番組を作っている。
昼食抜きの2時間のライブが終わろうとしている。
「このタペストリーについて伺いたいのですが?」
また福賀の手話が蘇った。
「このタペストリーは私が国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞し
た作品を京都で西陣織に織ってもらった物です。雪月花に入って専務になって
から此のホテルに引き寄せられて泊った時に女将さんにリニューアルの相談を
うけてホテルのポイントになる物として考えたのです」

「此処は福賀さんにとって或る意味でイメージのスタートの場所のようですね」
「そうです。全くその通りです」
「まだまだ福賀さんは不思議でなりません。またよろしくお願いいたします」
「中々その機会は難しいですが・・・」
「海会長さん。今日は大変お世話になり有難うございます。また宜しくお願いし
たいです」
「私が驚いたと話した福賀君の表の仕事を支えているものは彼が寸時を惜しまず
努力を重ねたからだと思ったのでアルミさんに頼まれて一肌脱がせてもろいまし
たが500回のお祝いになりましたでしょうか?」
「お陰様で十二分視聴者の皆さんにお楽しみいただけたと思います。更に福賀さん
の不思議さが増えました。ご本人は出演は難しいと仰っています」
「彼の事でしたら私が何とかしましょう。その節はどうぞ私を使ってください」
「そんな~使うなんて恐れ多い。でも海会長さんにお願いしないと福賀さんは来て
くれませんので宜しくお願いいたします」
福賀は二人の会話を手話にするのに困っていた。

「ところで、福賀さん。お子様は?」
「その事は、二人で何人か養子をお世話していただいて育てたいと決めています」

 つづく



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