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小説「イメージ4」 [小説]

イメージ No:64

 あらすじはNo:57にあります。
抜けている部分は回毎に折り込んでまいります。

 衆・参両院の解散で総選挙になり、告示が行われた。
自分党は最大派閥の闇雲が収賄で摘発され収監、内閣で残っているのは
大和田副総理だけになり、新しい内閣が出来るまでの仕事をしている。
党からは可成りの議員や党員が抜けて以前の勢いは無い。

 マスコミに立候補を匂わせて姿を消していた福賀の新党結成・党長と
して立候補が発表された。

「とうとう出て来ましたね。福賀さん」
「今度は総理ですね」
「どんな所信表明演説になるか楽しみです」
「何?街頭演説はしないって?」
「どういう事だ?」
「以前にこうした例はあったようですが」
「いや、あれは都知事の時じゃなかったか?」
「いえ、国政選挙でもでした」
「そうだったか。其れにしても福賀さんには又また振り回されるな」

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「そうですね。何処に現れるか皆目見当がつきません」
「こうなったら連携で行きましょう」
「連絡を密に情報交換宜しくお願いします。
「してナンバー2は?」
「松竹梅子(まつたけ・うめこ)副党長です」
「何か見えてきたぞ」
「え!また何か?立候補者男女の比率が男性1に対して女性2だと」
「これも始めから前代未聞です」

「衆議院立候補者420名。参議院立候補者300名だそうです」
「戦わずして勝負ありですか?」
「そうだな」
「いよいよ福賀総理大臣誕生か?」
「濃厚ですね」
「政界も官界も変わるだろうな」
「経済界も自然界も変わりそうですね」
「これは今世紀最大の事件になりますね」
「正にこれは事件だ。わくわくする事件だね」
「今から彼の”よりよい環境づくり第2章”が楽しみです」
「何しろデザイナーでアーティストで武道家で六代目彫辰ですから」
「武道は合気道9段、少林拳師範、気功術師範ですしね」

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「アラブ系大国に国王から命を助けてもらったお礼と石油基地を二つ
もらっているって云うから凄い」
「アートの方ではフランスのパリの画廊で福賀さんの作品を欲しい人
が作品を待っているそうだ」
「兎に角、あの代理所信表明演説は世界に発信されて知られている」
「更に、岩上総理の変わりで世界各国を飛び回り嫌われない日本を説き
続けて多くの国と不戦条約を交わし締結してきた仕事は大きいです」
「今までの内閣は防衛・防衛って攻撃される事を前提にして膨大な予算
を組んで来た。これにはアメリカからの圧力が掛かっていたようだが」

「福賀さんが国連に働きかかけた事が大きかったですね」
「問題があっても云わなければ無いも同然って事ですから」
「福賀さんは会社の専務時代に外国と交流をもって来たし」
「そうですね。それも内部の重要な人物と接していました」
「だから政権が変わってもつながりが続くんですね」
「流石です」
「福賀前総理が五代目彫辰さんに捕まって六代目を命懸けで頼まれたのも
6月だったと聞いています」

「6月は福賀さんにとって何かが起こる月なのでしょうか?」
「五代目彫辰さんが3年も毎日福賀さんの下校時に様子を伺っていたって
云うのも凄いけど、匕首(あいくち)を前に置かれて詰め寄られた福賀さん
が命の尊さを思って承知してしまったって話も凄いです」
「親から貰った体に墨なんか入れやがってと云った話を聞いた事があります」
「だけどね。五代目は無理を頼んだ福賀さんに災いが襲わないようにお守り
として彫ったんだそうだ」

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「この者とこの者が関わるところに一切手出し無用の事って裏社会の頭が連盟
で血判した書状を六代目彫辰さんが作らせて福賀さんに渡してあるそうだ」
「五代目が六代目に日本の刺青を裏の文化として出来る限り優秀な人に継がせ
たくて東京アート大学に通う人を見ていて福賀さんに目をつけたのでしょう」
「五代目の目は確かだって福賀さんの行動と成果を観れば明らかだね」
「彫辰はその世界では名人の称号らしいです」
「昨今、外国人や若者たちのタトウとの違いに命を懸けたのかも知らませんね」

「色々な意味の違いがあるけれど五代目には日本の刺青は精神的なモノであって
人に見せる装飾的なモノではないのですよ」
「日本の刺青の事を『我慢』と云う人もいますね」
「そして、人を見る目と云う事では株式会社雪月花の月下社長も凄いですね」
「新聞の記事を見て直ぐアタックして福賀さんの条件を全て受け入れてスカウト
したのですから」
「段階的には雪月花から副総理になる訳だし」
「まず部長で入って専務になって、それから副総理ですから」
「そして今度は内閣総理大臣?」

「組閣の時の呼び込みどうでした?」
「あの時も前代未聞。岩上総理が事務方と二人で始まったね」
「一番目に副総理に大和田さんが呼ばれた、その次だ誰が来るかと待っていたら
党からではなく民間から福賀さんが呼ばれたから大騒ぎになった」
「それも迎えの車ではなくて自前の黒のポルシェに乗って来た」
「恰好良かったですね」
「良かったね。みんな初めは解らなくて誰だ誰だって懸命に情報集めに走った」

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「岩上総理が辞め、福賀副総理も辞め残された大和田副総理はどうですか」
「今は選挙で出来る限りの事をするしかないけれど何れは福賀さんと派閥ごと
合流するのでは?」
「よりよい環境づくり」
「此れからどうなるでしょう。興味津々です」

 当の福賀貴義はどこにも姿を現さない。
ポスターは貼られているが新党「和」しんとう・わって書いてあり、ふくがきよし
此れだけで顔写真なし。
党長として政権への抱負や主義主張がテレビであるだろうと思いきや無し。
代わりに副党長の松竹梅子氏が出演している。
本人は何処に居るのかマスコミは探しに探してやっと捕まえた。
と云うか見掛けたのは何と祭りの踊りの輪の中だった。

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「やっぱり伊豆にいらっしゃった」
「福賀前副総理でいらっしゃいますか?」
「そうです。良く解りましたね。福賀貴義です。何かご用で?」
「何かご用って?何をしていらっしゃるんですか?」
「踊っていますが何か?」
「選挙運動の期間中ですが」
「選挙は未だですよ」
「立候補の皆さん選挙に向けて盛んにアピールしていますが」
「皆さんは皆さん。私は私なりに選挙に対しています」

 記者たちは苛ついて我を忘れているようだ。
「何かおっしゃる事ありませんか?」
「それは上野公園で皆さんとお会いした時にお話しました。此処でマスコミの
皆さんに其れは出来ません」
「そうでした。失礼しました。福賀前副総理を只今伊豆のお祭りの中で発見です」
「迷子の子供みたいに云わないでください。とうとう見つかってしまいました」
「福賀前総理でした」
「そうでしたハハハ」

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つづく

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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:63

 あらすじはNo:57にあります。
 抜けている部分は回毎に折り込んでいきます。

 まだまだ、と、新党結成と党としての立候補の発表は控えている福賀だ。
福寿司の一泊温泉旅行を打ち上げて福賀は残っている。
 この日はホテル・旅館連盟の女将の会があり、福賀の話を聞きに集まる。
場所は伊豆で一番大きな伊豆観光ホテルの大広間だ。
テーマは「イメージを形にする」そして此の流れは全国の女性経営者の会と
結び付き武道館で合体する。

 其処に唯一の講師として福賀が呼ばれている。
福賀は男女機会均等法を只のイメージではなく男女半々の大臣で組閣した
実践者として実績がある。

「福賀さんから話を聞きたい」
「福賀さんに戦略を学びたい」
「感覚とイメージと想像について聞きたい」
「外交について、エネルギーについて、自然との関りについて聞きたい」
「嫌われない日本についても、もっと詳しく聞きたい」

 福賀について可成りの事を知っていて、その一つ一つに強い関心を持ってお
り、其の上で確かな話を本人から聞きたいのだろう。
福賀は「よりよい環境づくり」内閣の副総理としてヨーロッパ諸国・中近東諸
国・東洋圏諸国の首脳と会っており、それらの国々と不戦条約と相互安全保障
条約を取り付けた人だ。

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「では、此れらの条約の締結をお願いしますって福賀さんは云って平和への
礎を築いたでしょう」
「100年も維持出来る軍事基地何ていらないのよ」
「全ての米軍基地はいりません」
「岩上前総理が以前に仰ってた。福賀副総理は既に世界各国を回って親交を
深めている。それは非常に貴重なものでしたって」
「そうして資料を岩上さんはしっかり待たれていたんだ」
「そして、若くて行動力がご自分より遥かにあるし」

「国連にも福賀さんは働きかけましたね」
「国連の中にも福賀さんのシンパが何人も居たって」
「それで、アメリカの今までに、沢山の軍事基地を日本に置いて支配的な力を
持って植民地化している事に疑問を抱かせた」
「そうですね。ヨーロッパも中近東など多くの国から非難の声が上がり始めた」
「それでもアメリカは日本と安全保障条約を交わして日本を守るために軍事基地
を置いていると弁明」

「しかし、このアメリカの弁明ととれる答えは支持されなかった」
「何故ならアメリカは第二次世界大戦終了後暫定処理として駐留したが、其れは
日本が戦争放棄による無戦国としての独立を見届けるためだった」
「その役割は充分に果たし、日本も充分に答えたはずだ」
「なのに、未だに駐留し多くの基地を存続させ、月毎に日米会議を行い、日本に
圧力を掛けて自国の力を押し付けているのではないか」
「これも岩上「よりよい環境づくり」内閣のメスが入って解除」
「直ぐ云われるのが他国から攻撃されたらどうする」
「与党の面々は、それしか云えない」

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「よっぽど悪い事をしているんでしょうね」
「よっぽど嫌われる事をしてるんでしょうね」
「やられるって決めている」
「それは自然をないがしろにしてきた罪悪感かしら」
「そうです。困ったものです」
「ところで・・・福賀さんの冬眠の話は?」
「聞きたいですね」
「可成り進んでいるとか」

「話は違うけど、福賀さんは記者さんを大事にしてましたね」
「そうです。お互い勉強だって云って」
「なあなあにならないで真剣にやりあっていたそうよ」
「いつも私はよりよい環境を求めています。これは絶対にブレませんね」
「ブレませんね」

「それって悪い環境を是正してからですねって突っ込まれる」
「そうでしたね。そしたら福賀さんは何て答えましたか?」
「私は絵を描くのでキャンバスに向かってイメージを形にして行きます」
「だから?」
「だから画面の中でイメージの環境を出来るだけ良い感じにして行かない
と気持ち良く進められませんって云います」

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「すると?」
「記者さんが良くない感じになったら・・・って聞くでしょう」
「すると福賀さんは思い切って描き直しますって」
「それは経営にも云えるわね」
「政治の世界でも同じじゃないですか」
「そう。描いたものが必ずしも良いとは限りませんしね」
「折角描いたのに?」
「そう。折角って無いって福賀さんは云うのです。求めるものが違えば
其れを大事にして何とかしようとしても良くならないって云うの」
「描き直す、やり直す、思い切りが大事なんですね」

「勿体ないとは?」
「思わないんですね。思ってはいけないって云うのです」
「折角だから、勿体ないから何とかしようとしても、間違いは直せますが
違うものは直せませんって」
「なるほど・・・」
「その辺ももっと聞きたいですね」

 つづく


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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:62

 あらすじはNo:57にあります。

 まだ福賀が新党「和」の党長になったと公表されていない。
伊東温泉・山海ホテルの福寿司一泊旅行でリラックスした福賀は山上前総理の
手伝いをする前に頼まれて顧問になっていたホテル・旅館連盟と漁業組合とも
このホテルの部屋からオンラインで会議に参加している。

 そんな福賀は海が好きで温泉が好きで踊りも好きだ。
「では、久しぶりに奴さんとかっぽれを踊らせてもらいましょう」
「いよ!副総理!」
「大将!それは止めてください。辞めたんだから」
「ゴメン!じゃ~福賀専務!」

 福寿司の連中とは付き合いで来ているが、誰にも内緒でたびたび来ているのだ。
ホテルの女将に頼まれて地元の芸妓連に肩入れをしている。
新しい企業の進出もあって芸者衆を呼ぶよりコンパニオンを呼ぶようになって
芸妓置屋が寂しくなって来たので何とかしてもらえないかと云うので福賀は考えて
芸妓の一人、置屋の娘に東京の地唄舞の宗家に頼んで内弟子にしてもらって名取に
仕立てた。

 そんな縁もあって福賀には自分のバンドがついていて何時でもスタンバイの
状態になって福賀を待っているのだ。
ここ最上階の宴会場には高さ50センチ、ヒノキ造りの舞台が用意されている。
福賀はその上にひょいと飛び乗り浴衣を尻ばしょいし頭にねじり鉢巻きをきりりと。
「よっ!」とバンドに合図を送る。
待ってましたと唄と三味線が控えめながら心地よく軽快に流れ始める。

(あ~こりゃ こりゃ)
奴さん どちら行く(あ~きた こりゃ) 旦那 お迎えに さても 寒いのに
供揃い (雪の) 降る 夜も 風の 夜も(さて)お供は 辛いね
いつも 奴さんは 高ばしょり(ありゃせ~)え あこりゃせ それも そうかいな
(あ~こりゃ こりゃ) え~姐さん ほんかいな~(あ~こりゃ こりゃ)
後朝(きぬぎぬ)の 言葉も交わさず 明日の夜は (裏の)窓には わし一人
(さて)合図は よいか 首尾を ようして 逢いに 来たわいな(ありゃせ)
ありゃせ それも そうかいなえ~(あーこりゃ こりゃ)

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「続いて かっぽれ いきましょう」

(かっぽれ かっぽれ よーいとな よいよい)
沖の 暗いのに 白帆がえ~ 見ゆる(よいとこ りゃさ)
あれは 紀伊の国 あれこの これわいさ (よいとさっりっさ)
え~みかん船じゃえ(あ~みかん船)
みかん船 じゅさーえ 見ゆる(よいとこりゃさ)
あれは 紀伊の国 やれこの これわいさのさ(よいと さっさっさ)
えーみかん船じゃえ(かっぽれ かっぽれ よーいとな よいよい)
沖じゃ わしがこと 鴎と云うがなさ よーいやさ (よいとこりゃさ)

墨田川では やれこのこれわいさのさ(よいとさっさっさ)
都鳥(あ~みやこどり)
都鳥(あ~みやこどり)よいやさ(よいとこりゃさ)
隅田川では やれこのこれわいさのさ(よいとさっさっさ)
都鳥〈あ~みやこどり) 都鳥(あ~みやこどり)よいやさ (よいとこりゃさ)
隅田川では やれこのこれわいさのさ(よいとさっさっさ)
都鳥〈さて かっぽれ かっぽれ よーいとな よいよい)
ここは どこぞと 船頭しゅうに 問えばさ よいやさ(よいとこりゃさ)
ここは 屋島の やれこのこれわいさ(よいとさっさっさ)
壇ノ浦じゃえ (あ~壇ノ浦)

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 時間は夜の10時を回っているだろう。
宿泊客には未だ宵の口かもしれないが静かな癒しの時間でもある。
それを充分わきまえた声とお囃子で歌が流れ三味線が追っている。

 日本の芸として海外で挨拶代わりに披露出来るように福賀はその筋の家元に
頼んで指導を受けて習得していたものだ。

「お楽しみいただけたでしょうか?」
福賀は芸者衆に頭を下げて礼をし、居並ぶ福寿司一行に伺った。
「十分過ぎるほど楽しませてもらいましたよ。福さん」
「奴さんとかっぽれ。日本の代表的な和の芸だって感じました」

 控えめだけど大きな拍手が沸いた。
「バリ島ではね。昔、部落で争い事があった時には踊りで決着をつけた」
「ほ~それは良いね」
「日本でも世界でも踊りで決着をつけると良いですね」
「すぐ力で争う事しか考えつかないって悲しいね」
「防衛費に何十兆円も掛けるなんてね。教育とか養護だとか医療とかね」
「助け合うことが必要な事が一杯あるっていうのにね」
「福さん。頼みますよ」

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 つづく


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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:61

 あらすじはNo:57にあります。

 福賀は新党「和」の党長になり、来る総選挙に立候補する前に活動のスタート
となっている銀座8丁目の福寿司から例の温泉一泊旅行で伊東温泉・山海ホテルへ
来ている。

 福寿司の大将をはじめ店の者や常連客と今しがた大浴場で福賀と一緒に温泉に
入って今は宴会場で食事しながら酒を飲んでいる。

 この山海ホテルの最上階には福賀が株式会社雪月花の専務になって間もないころ
立ち寄り,女将の求めでリニューアルに参加、デザインとホールの壁にホテルの
シンボルになるタペストリーの提供代として露天風呂つきの2室をもらっている。

 福寿司一泊温泉旅行の時には信用出来る人たちとの交流として女将に頼んで30分
大浴場の男風呂と女風呂を貸し切りにしてもらって福賀は一緒に入っている。

 自分党の山上に頼まれ手伝う事になり、まず最初に行ったのは組閣、福賀は当たり
前の事として男性と女性半々の大臣構成を提言して実行させた。
それは山上とお互いに持ち合っている”よりよい環境づくり”の基本的理念に沿ったもの
だった。

 党の役職と内閣の構成が行われる恒例の”呼び込み”の時もマスコミの記者たちが陣取る
テント村も今までに無い緊張感に包まれていた中で民間から呼ばれた福賀の時の驚きは
最高だった。
その後の呼び込みが男女交互に呼び込まれる様子にも驚きの声があがりテントが震えた。

 そして迎えた衆議院本会議の岩上総理の欠席で福賀副総理の代理演説、それも原稿を
持たずに2時間の総論・各論・具体策は日本国中と世界各国を興奮させた。

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 その議場のテレビ中継は福寿司でも観ていて大将はシャリを握ったままで立ち尽くし
客もあんぐり口を開けたまま寿司を口に入れることも忘れ呆然としていた様子を思い出
して宴会場は大盛り上がりだ。

 それは事件と云わせた張本人が同席して居るのだから当然と云えば当然の事だ。
この人があの時の人だなんて想像もつかない気持ちなのだろう。
その人が此処に居て自分たちとあの時の事を話している。
聞いている側も熱ければ話している福賀も熱い。

「そうです。女性は男性より優れています。そう男性は優れていると思って居いても思い
たくない気持ちは解りますが、考えてみましょう。第一に男性も女性から生まれたでしょ
う。生まれなければ存在すらしていないのですよ。それだけではない
育ててくれたのは女性です。それは自然から授かった母性によるものです。男性にそれ
がありますか?無いでしょう。今、男性が存在しているのは女性が居たからです。

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「それゆえに女性の尊厳を何よりも尊いものとして認めなければいけません。違うか
な?女性は産むために存在するのではなく、生み出す人間として存在しているのです。
男性は産み出す体質も精神も能力も女性のようには持ち合わせていないのです。その
弱点を補うかのように偉ぶって補っているにすぎません。哀れと云えば哀れ、寂しい
存在なのです。その寂しさをカバーしようと女性を哀れな存在として支配し続けて来
たのが此れまでの男性社会の実態なのです。何かと云えば力を固守し、女性は弱い者
として助ける役割を装って人殺しを続けて来た。人を思いやる気持ちも守る気持ちも
自然とのつながりも女性の方が遥かに優れています。そして精神的にも肉体的にも男
性より女性の方が強いのです。今こそ男性は女性が優秀である事実を認め、女性に対
し素直になってサブに回り、女性を援護して行くべきだと思います」

「福さんの仰る事は良く解った。確かにあっしもそう思うよ」

 大将は福賀が3歳で両親を失った事をしっている。
その子がいやその人が女性は素晴らしい尊敬して任せるべきだと云っている。
そう思うと胸が締め付けられるように痛いのだ。

「大将はおかみさんに頭が上がらない。見ていて感じます。それって尊敬してるから
でしょう。だから私も尊敬してるんです」

「そうですよね。男は戦う事しか出来ない人間だって云われてみると思いますよ。平和を
平和をと串では云っていますが、今まで本当に戦争に次ぐ戦争の連続でした」

「初めてでしょう。日本が不戦国を憲法に入れたのは」
「憲法第九条」

「それでも此れも絵に描いた餅になりそう」
「それは自然をないがしろにした男性の末期的な気持ちの哀れですね」
「まったくです」

「誰が変えてくれますか?」
「福さんしか居ないだろう」

「頼みますよ福賀前副総理」

 空には煌々と輝いて満月が微笑んでいる。

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 つづく

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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:60

 あらすじは No:57にあります。

 此処は伊東温泉・山海ホテルの宴会場。
大浴場から上がって来た福寿司の一泊温泉旅行の連中と福賀が食事をしながら
語り合っているのは・・・あの代理所信表明演説の話。

「岩上総理が急性盲腸炎で入院の臨時ニュースが流れて既に知られていましたね」
「そうだよ。うちだって店でテレビをつけてるから解った」
「私は会社で知りました」
「あの時は外回りで街中で知りました」
「私はデパートの家電売り場のテレビで観ました」

 それぞれが臨時ニュースで知ったのだ。

「そして、国会の衆議院会議場に画面が変わりました」
「そうだ。大臣席に副総理の福さんが座っている。それぞれの大臣たちが座る」
「野党席と与党席とびっしり席がうまっていました」
「上野衆院議長が席に着きました」
「何て云うか夫々が固唾をのんだって感じだった」
「本日は総理大臣の所信表明が行られる予定ですが岩上総理大臣が急性盲腸炎
で入院され福賀副総理大臣に代理をと頼まれましたので議長特権でそれを許します。
福賀副総理大臣どうぞって云ったね」
「ビックリでした」
「誰だってそりゃあビックリだろう」
「え~そんなのあり?って感じでした」
「また、福さんが出て来たからビックリだったよ。出てきちゃったよって」
「そうです。話は議長とついていたんでしょう」
「ついていました」
「何も持ってないじゃん」
「議長に挨拶をして演壇に登って深々と頭を下げたね」
「事務方が何か持って飛んでくるかと思って観てたけど来ないよ。大丈夫か福さん」
「そんな感じで私は震えていました。本当に」

「ドキドキでした。どうなる副総理って心配していました」
「そうれが何だったんだろうって感じで始まったので参りました」
「参ったか?俺も参ったよ。シャリを握ったままで突っ立てたからな」
「恰好良かったですね。最初に云ったね。緊急事態につき議長のお許しをいただき
総理の所信表明を代行させていただきますって、そして原稿無しの演説が始まった」
「そして、まず初めにこの内閣を『よりよい環境づくり内閣』とします。国外には
好かれなくても嫌われない日本を目指し国内には国民の安全と平穏な暮らしをもとめて
いきます。そのために今までの環境を見直し悪しきを改め、良い環境づくりを進めて
行きますって」
「総論・各論・具体策としっかり国民の立場で議員の後ろに居る我々に向かって話して
くれました。こんなこと今まで無かったから感激でした」

「官僚の台本ではなくご自分の言葉で語られた」
「それも突然の事態で用意する時間も無かったのに、代理で1時間づつ休憩を挟んで
2時間もこんな素晴らしい事がなんで出来るんだろうって」
「観てて聞いてて涙が出て来て困りました」
「あの福賀専務さんが・・・いや福賀副総理が健気で凛々しくて頼もしくて泣けました」
「おいらだって悔しいけど涙が出て出て止まらなくて何なんだよ福さん酷いじゃないか」

「原稿無しっていうのが堪りませんでした。今まで何年も議員やってる人が出来なくて
企業の専務だった福賀さんが出来るんだって」
「本当だ。出来る人は出来るんだって解ったね」
「何年やってても出来ない人は出来ない」
「面白いね」
「テレビ観た人も街の大きなスクリーンで観た人もデパートやお店で観た人も観終わっ
た時はみんな拍手喝采だったでしょう」
「議場では福賀副総理が代理演説を終えた時一瞬し~~~んと静まり返ったね」
「それから一人二人と立ち上がって全員起立のスタンディングオベレーション」
「日本だけではなく世界でも無かった事でしょう」
「あれは正しく事件でした」
「良くお出来になりましたね」
「いや~あ、あれは岩上さんには申し訳ないけれど私が手伝いをさせていただくためには
幸いでした」
「え~~~?」
「あれは本当に一か八かの勝負でした。出来るか出来ないかではね」
「それはそうでしょう。今まで殆どの人が人が書いた文を読んで来たんですから」
「それは出来ないからですよね。自分にしっかりした考えが無いから人に作ってもらう」
「福賀さんはご自分の考えをしっかりお持ちになられていらっしゃる。だから出来た」

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 つづく

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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:59

 岩上総理が体調不良で総理を辞め、自分党を離党した。
福賀も副総理を辞め、自分党を離党した。
そして政界に関わる以前の株式会社雪月花の専務に、東西観光の社長とフランス航空の
副社長に戻った。

 その福賀にみんなの党の党首・大海から新しい党づくりを頼まれ、それを受けて今は伊
東温泉山海ホテルに集まって新党「和」を結成したところだ。

 そして後日、夫々の党や個人の立候補が行われる前に、気心が知れた福寿司の面々と伊
東温泉一泊旅行で密かに山海ホテルに東西観光のバスでやってきた。

「そうなんですね」
「あの時の岩上総理の話では、これからは女性に頑張ってもらわないとって事でした。それ
は私と同じでした」
「それにしても、女性の大臣は一人か二人がやっとでしょう。今までは?」
「そうだね。申し訳みたいにね。女性の閣僚も居ますよって」
と福寿司の大将が同調。
「それが男女半々の組閣。前代未聞でした」
常連客が受けて決める。
「あの時は自分党は支持率最低の闇雲総理でしたね」
「辞職しましたが」
「自分党の議員たちは何でも良いから自分たちが議員で居られたい」
「そう思って居たのでしょう」
「そこを岩上さんは掴んだ」
「そうです。党の改革と政権改革に絶好のチャンスだと岩上さんは思ったのです」
やっと福賀が岩上さんの狙いを認めた。
そして付け加えた。
「男女機会均等法は在っても実際は絵に描いた餅でしたから先ずは形にしたのです」
「それは岩上さんが決めたのですか?」
「私が私のイメージしていたものを岩上さんに提案しました」
「そうでしたか。男女半々の組閣なんて世界でも無かった事ですね。それが福さんの手伝い
か」
「大きな手伝いですね」
「イメージは形に出来る時に形にしないとイメージのままになってしまいます」
「確かに」
「やっぱり福さんだ」
「絵に描いた餅を食べられる餅にしましょうって岩上さんに云いました」
「云ってみるもんですね」
「そうです。そのために私を手伝いに頼んだのですから」
「なるほど。岩上さんは解っていたんだね。福さんのイメージの凄さを」
「たぶんね」
「機会均等には良い機会でした」
「洒落ですか。それって」
「いや、大真面目です」
「それが福さんのイメージを形にするって奴で先ずは均等の形から」
「そうです。初めが大事ですから。大将は流石です。良く解ってる。何処でも誰でもやっ
てる事をやっても何も変わらないって」


「話はあの原稿無しの代理演説に戻らせていただきますが、あれをフランス航空の社長が
観ていたそうですね」
「そうなんです。以前に会っていて、私に関心があったらしいのです」
「それで福賀さんが副総理を辞めたら呼ばれて副社長に」
「あちらも社長以下役員が居て皆の合意がなければ出来ない事ですが出来ました」
「辞めても帰るところが沢山あって福さんは良いね。あっしなんか一つの店しか居るとこ無
し」
「何云ってんですか。皆さんに囲まれて愛されている大将は一国一城の主じゃないですか」
「使われているんじゃないって素晴らしいですよ」
「そうだそうだ。その通りだ。大将は幸せ者ですよ」
「そうか。そうなんだ。云われてみて初めて解ったよ」
どっと笑いが沸いて起こった。

「みんな夫々って事ですね。違いを持ち合ってる」
「ところで、こんな素晴らしい旅行って始まったのはどんな事からなんですか?」
初めて参加した常連さんが聞いて来た。
「最初ね。それがね。突然、あの時、株式会社雪月花の専務だった福さんがブラって入って
来て其の瞬間に何か縁みたいなものを感じてね。今でも不思議なんだけどね。良い感じだな
~って、そしたら行き成り云ったね。大将、私が全部もつから此れから温泉一泊旅行に行か
ない?って」

「へ~え、それってビックリだったでしょう?」
「それはそれはビックリしましたよ。でも抵抗は全く無かったね。良いな~って思っちゃった」
「へ~え、それは何で?」
「それは、あっしもそんな気持ちがあったからだね。ぱ~っと行ってみたい気持ちが」
「大将の気持ちがぴったり合ったんですね」
「そうなんだね。こっちの気持ちを云ってくれた人。生まれて初めてだったから」
「嬉しかったんだ。通じるものが在って、タイミング良く云われちゃったんですね」
聞きたかった人も、聞かれたかった人も、納得して頷いている。

 他の人が聞いて来た。
「その時の福賀専務が副総理になった時はどうでしたか?」
「あの時は驚いたよ。まさか専務が副総理って常識じゃあ有り得ない話だから冗句だろうと」
「思いましたか。そうでしょうね。私もまさかでした」
「その後で総理と一緒に組閣をして結果、男性と女性の閣僚を半々にしたと聞いて福さんだと」
「納得しましたか?」
「だって福さん以外にそんな事出来るの居ないからね。その後もサプライズが続いちゃって
もう気持ちよくて嬉しくなっちゃたぜ」
「そうですね。総理の突然の入院で代理演説でしょう」
「それも原稿無しで2時間。総論・各論・具体案と今まで誰もして来なかった事をやったね」
「あの時の状況を思い出すね」
「再現してみましょうか?」
「やってみよう」

 つづく

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小説「いめーじ4」

小説 イメージ No:58

 雲さんとの会話 そして水さんと・・・福賀貴義〈ふくが きよし)


  雲「”きよし“と会って話すようになったのは、"きよし”が絵を描くようになった
時からだね」
きよし「そうです。あれは突然の事でした。空から声が聞こえて来て」
  雲「実は、前から“きよし”を見ていた。気になっていたから」
きよし「そうでしたか。私が気が付かなかっただけですね」
  雲「私は水分の集まりだから、形が有ったり無かったりで“きよし”の方からは見
えなかったり
    している」
きよし「形も色々違っていて同じ形はありませんね」
  雲「”きよし”も感覚的には霧じゃないか」
きよし「はい。人それぞれだと思いますが、私は形にならない霧だと思っています」
  雲「私と似たような性格だから、何となく親しみがあるんだな」
きよし「なるほど。云われてみると確かにそんな感じがします」
  雲「今日は何か私に聞きたい事があるらしいね」
きよし「そうなんです。今までに無かった事が起きる予感がしているので”雲”さんと
話したくなりました」
  雲「そのようだね。でも、それは決められていた事で行くしかありません」
きよし「行くところまで行くのですね」
  雲「そうです。前に進む以外にありません」
きよし「”雲”さんと話して良かったです。これで良かったかなと確認したかったから」
  雲「大丈夫。こうして居たらとか、こうして居ればは君には無いのだから。前へ前
へ思ったり、感じた事に向かって進んで行けば良い」
きよし「有難うございます。自然の大切さを忘れずにいます」
  雲「そのために君が居るのだから。よろしく。そうだ”水”さんが君と話したいって来
ている」
きよし「”水”さん。いつもお世話になっています。私たちは半分以上70~80%水分で
すから」
  水「それが解って大事にしてくれている”きよし”を嬉しく思っています」
きよし「空気も水も生き物には本当に大事なのに便利さを求めすぎて疎かにしていていけ
ません」
  水「”きよし“が私たちの事を大事に思ってくれているから心強いです」
きよし「私が最後の砦にならないように後の者に引き継ぎます」
  水「是非そうしてください」
きよし「約束は必ず守ります。任せてください」
  水「私たちは君たち生き物のためにあるのだから、その事をしっかり心の中に持って
ください」
きよし「解りました。忘れることがないように気を付けます」


 福賀貴義は縄文人の血をそのまま受けついでいる。
最近は何かと云えば差別と云うが違いを全て差別と云うのは間違いだと思う。
違いを認め合うのではなく意味嫌ったり卑下したりする事が差別になるのではないか。
勿論、縄文人と弥生人。そして縄文弥生の混血も夫々の違いであって認め合うものだと
思う。
例えば、縄文の狩猟と弥生の農耕。そして其の混合が現在に多く存在している事実を。

 また、縄文のDNAは中国に多く認められ、韓国ではほとんど認められない違いもある。
福賀の基本的な理念は、夫々の違いを認めて関わり合う事だ。
一卵性や二卵性児のように僅かな違いから生まれた時から視覚を持ち合わせない違いなど
様々な違いと関わる気持ちと姿勢。

 誰もがたった一人で居る訳ではなく、周りの人たちの中に居る環境で如何にあるべきか
福賀は常に考えている。
そこから“よりよい環境づくり“の必要性が出てくる。
「そんなお堅いことを考えていられますか?」
って云われるのを承知で福賀は当然のものとして掲げている。
そして、女性は男性より遥かに優れていると認めている一人なのだ。
しかし、愚かな男性たちは自分たちの支配的社会を守り続けようとしている。
心の中では既に男社会は限界に来て居ると感じながらも懸命に踏ん張ろうとして悲しい。

つづく

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