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小説「イメージ4」

イメージ No:76

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。

 日の出ー1.jpg

語り手 雲(クモ)
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)前・総理 現在は(株)雪月花の副社長 
    (株)東西観光の社長 フランス航空の副社長 ホテル・旅館連合顧問
    漁業・農業連合顧問 総理府特別顧問等
    福賀(フクガ)ナミカ 福賀貴義の妻

その他 山海(サンカイ)小波(コナミ)山海ホテル女将
    福崎(フクザキ)正人(マサト)福寿司大将 乙女(オトメ)女将
    山谷(ヤマタニ)海乃(ウミノ)(株)東西観光副社長
    車(クルマ)好人(ヨシト)(株)東西観光取締役
    松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)現・総理
    ハサン・アフマド・イブラヒーム アラブ系王国の王子

「福賀さん、私の方は準備が出来ています」
「そうですか。では、明日午後にフランス航空でパリに行ってアトリエに集まった
人たちに【よりよい環境づくり】の為に賛同を得るようにしましょう」
「お願いします。盗まれた人を取り返す。当たり前の事ですから」
「随分長い年月出来なかった事ですが、やっと待ちに待ったご家族に佳い新年を迎
えていただきましょう」
「待ちくたびれて亡くなられた方には本当に申し訳ないのですが・・・」
「福賀さん、NPO「ナミカ」の皆さんが無国籍の船をチャーターされて最短距離の
港にスタンバイするように向かわれているようです」
「そうですね。私の方にもナミカからメールが来ました。決行は12月31日夜半」

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 12月29日午後の便で福賀はパリに飛んだ。
アラブ系王国の王子ハサンの住まいにある福賀のアトリエには既に各国の高官達が
集まって待っていた。
「や~ぁ皆さんお久し振りです。お互い元気で良かったです。実は国連の本部にも
話していましたし、皆さんにもお話していた事ですが長い間盗まれていた者があり
ました。盗まれたものは取り返して当然の事ですが今まで出来ていませんでしたが
やっと皆さんの理解のもとで実現出来る事になりました。感謝です」
歓声と大きな拍手が起きた。
「私は福賀さんから聞いていたのでちょっと動きました」
「お世話になりました」
「うちは主席があの国のあの人を12月31日に呼ぶようにしました」
「有難うございます。助かります。傷つけずに済みます」
「その日が取り戻す日になりますね」
「そうです。お出でにならない方が穏やかに事を進められます」
「無事に済むように協力します」
「盗まれたものを取り返す当然の事を当然な事として行うのですね」
「そうです。一度少しだけ返されました。そして全て解決とされました」
「そうではなかったのですね」
「そうです。当事者が亡くなって事件もなくなった事になっていました」
「今回で盗まれたものは取り返す事が出来て良かったですね」
「やれば出来る事ですね」

 日の出ー3.jpg

「皆さんのお陰です」
「自然を大事にする福賀さんだから出来た事です」
「NPOナミカに頼まれて無国籍の輸送船を用意しました」
「有難うございます。ナミカから聞いています。助かりました」
「事件は国家的な意図で行われたのではなく個人の出世欲から起こされた事が解り
ました。良かったです」
「結婚して家庭を持っている人もいて、一緒に帰りたい人たちもいます」
「そうでしょうね。その人たちは?」
「一緒に帰ります」
「当然ですね」
「役所の人たちや、家族の関係者たちには翌朝まで良く眠っていてもらいます」
「それは良い考えです」
「輸送船はどうなりますか?」
「日本海側の先ずは日本の北陸側の港に被害者の家族を降ろして西に向かってからは
九州辺りに着港して被害者たちを降ろし、後はヨーロッパに向かう予定です」
「福賀さんは此の後どうされますか?」
「私は乗船された方たちが無事に夫々の所にお帰りになるまで此処に居て見守りたい
と思っています」
「それでは盗まれた大事な命が無事に取り返される事を願って乾杯をしましょう」
「祈りの乾杯ですね」
「はい。そうです」
このお城のような住まいの持ち主ハサンの呼びかけで乾杯が行われ大きな拍手が部屋
中に鳴り響いた。
ナミカから福賀にメールが来た。
「全員無事に乗船しました。此れから新潟港に向かいます」
「ご苦労様です。皆さんを安全に送り届けてください。気を付けてね。幸運を祈って
います」

つづく

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 当拙ブログにお越しくださる皆さん一年大変お世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。
皆さまにとって2024年が佳い年でありますように願っております。


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小説「イメージ4」

イメージ No:75

 あらすじはNo:57にあります。
抜けている部分は回毎に折り込んでまいります。

語り手 雲(くも)
主人公 福賀(ふくが)貴義(きよし)前総理・(株)雪月花 福社長
    東西観光 社長 フランス航空 福社長 画家・グラフィック・デザイ
    ナー 
その他 松竹(まつたけ)梅子(うめこ)現・総理大臣
    山海(さんかい)小波(こなみ)山海ホテル 女将
    福崎(ふくざき)正人(まさと)福寿司 大将
            乙女(おとめ)福寿司 女将
    山谷(やまたに)海乃(うみの)東西観光 福社長 福賀付添乗員
    車 (くるま)好人(よしと)東西観光 取締役 福賀付運転手

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 福賀は3歳で両親を亡くし、合気道五段の父方の叔父に鍛錬され、父の血を
受け継ぎ才能を開花し、大学に入る時には大師匠から九段をいただく。
そんな彼は幼い時から孫悟空に憧れ雲に乗って悪い奴を遣っ付けたいと思って
いた。
大学に入ったら夏休みが2か月あるのを知り中国に渡って少林寺の門をたたき
入門。
少林寺で4千年の歴史を学び少林拳と気功を習得する。

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 松竹の相談を受けて自室で話し合い女将の小波と一緒に部屋付き露天風呂に
入った後にワインとお洒落な料理でイヴを過ごして朝を迎えた。
6時に起きて基礎トレーニングを済ませてロビーのホールに降りて来た。

 既に福寿司の大将とご一行は可成り楽しく昨夜は飲んでいたのだろう夫々眠そ
うな顔をして軽い朝食を済ませていた。
其処に松竹の顔は無い。
早朝に官邸に帰ったのだろう。

 一行を乗せたバスは伊豆港に向かっていた。
恒例のイベントが待っている。
「おはようございます。組合長」
「いよっ!総理いや前総理そして福賀顧問お久し振りです」
「またお世話になります」
「いや此方こそよろしくです」

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 山海ホテルから電話があったのだろう宅急便の用意までされていた。
「皆さんハッポウの入れ物を用意しましたから好きなものを入れてくだい」
初めて同行してきた福寿司の常連の客が驚いて聞いておる。
其れはそうだろう。
好きな魚を好きなだけってあり得ないと思うのが当たり前。

「良いんですよ。何時もって訳じゃないし。福賀さんはうちの顧問だし」
「フクガセンムさんは顧問何ですか?」
「そうです。副総理になられる前ですが私がお願いしました」
「それはビックリですが、本当に良いんですか?」
「良いんですよ。みんなあの人持ちですから遠慮はいりませんよ」

そんな皆から離れたところで福賀が楽しそうに笑っている。
此処だけじゃありませんよ。
まだまだ福賀には色々あるんです。
それは次にして今日はこの位にしておきましょう。

 つづく
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小説「イメージ4」

イメージ No:74

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。

書いているのは雲(クモ)
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)前・総理大臣
その他 松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)現・総理大臣
    山海(サンカイ)小波(コナミ)山海ホテルの女将
    福崎(フクザキ)正人(マサト)福寿司の大将

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 月の灯りが差し込んでくる5階の自室でパソコンからメールに返信し終えた
福賀がふと部屋付き露天風呂に目をやると人影が見えた。
素早く赤外線グラスを付けて室内の灯りを全て消した。
露天風呂は外側に柵があるだけだ。
暗闇の中で月明かりを背に3つのシルエットが中に入って来た。
部屋のドアを開けて福賀は風呂場に入る。
月を私(雲)は隠した。
その瞬間に福賀は動いた左に右に中央に、殆ど一瞬だった。
恐らく、福賀の行動を封じるように頼まれたヒットマンだろう。
福賀は先ずは、彼らの動きを止めた。
次に気を失わせた。
女将に電話して信頼出来る体力のある従業員を二人連れて部屋に来てほしいと。
 気絶した三人は運搬用のエレベーターで地下まで運び福賀が自分の車で帰りの
高速道路の路肩まで運び放置した。
彼らの身元が解らないようにパスポートは取り上げて破棄した。
巡廻してホテルに帰った福賀は予定通り貸し切り大浴場男風呂へと向かって行く。
 入り口で従業員に挨拶をして中に入る。
中に居るのは20人ちょっとだろうか。
洗い場で身体を洗ってプールの様な湯船に浸かってフクガキヨシ専務を待っている。

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「失礼します」
いつもの挨拶だ。
格好よく身体に掛け湯をして湯の中に入って来た。
「う~ん」
と首まで入って唸った。
外は可成り冷えている。
それに、背負っていた大役を降ろして好きな温泉に身体を沈めて安堵したのだろう。
「ほって一息だね。福さん」
大将が労う。
「大変お世話になりました。大将はじめ皆さんのお陰です」
「いや~ぁ、良くやってくれました。有難う」
「あんなに仕手くれるとは思っても居ませんでした」
「やらせてくれと頼んでじゃなく、頼まれてやったんだから凄いです」
「頼まれるってのが先ず凄いよね」
「頼んだ方も凄くないですか?」
「そうだね。良く頼んだよね」
「その話は何れまたにして、背中のモノが泳ぎたがっているので・・・」
「そうだ。たっぷり泳いでください」
「私たちも拝ませていただきます」
福賀のお守り五代目彫辰の龍も今日はニコニコ笑っているようだ。
泳ぐ福賀も楽しそうに身体をねじったりして楽しそうだ。
「では、お先に・・・彼方の方に行ってきます」
 大浴場女風呂の前に従業員が二人福賀の来るのを待っていた。
一人が中に入って福賀が来たことを告げた。
今までざわついていた風呂場の中が其の知らせでし~んと静まり返った。
日本で初めての女性の内閣総理大臣を作り上げた福賀が裸で入って来る。
20人程の女性たちは肩まで湯の中に沈んでいる。
まして個々の温泉は乳白色だから方から下は隠れている。
それでも裸でいる感覚のままだから不思議だ。
内はテレビの旅番組の様にバスタオルを巻いての入浴は居ていただきませんと女将に
云われている。
そうした事は此のツアーの先輩から聞いた上で参加している。
 今の山海ホテルは福賀が最初に来た時、女将に相談されてリニューアルを手伝って
1階フロアーのホール壁面に福賀が国際アート・フェスティバルでグランプリを取っ
た作品を西陣で織ってもらったタペストリーが飾られており、各部屋ごとに福賀の作
品があり、部屋付き露天風呂を何室作らせ、トイレを自然より落ち着く漢字にした。
更に、大浴場を男風呂・女風呂ともに壁面をタイルで飾った。
其処にローマ彫刻を思わせる福賀が入って来た。

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「失礼します」
と云って福賀が入ってくるのが福寿司ご一行ツアーのイベントになってしまった。
既に男風呂で身体を洗って来ているので、湯船の淵に来て掛け湯をして湯の中に入っ
てしまった。
其れこそ首まで頭を残した状態で暫くじっと息を殺している風だった。
女性たちも其れまで全員が肩まで沈んだままで目を閉じている。
「皆さん。こんばんは。もう目を開けても良いんじゃないですか?良い湯加減です」
福賀の一声で先ず女性を代表して松竹が声を出した。
彼女は今夜が二度目だろうか。
「はい。仰る通り気持ちが休まる良い湯加減です」
「そうでしょう。皆さん如何ですか?」
「はい。良い湯加減です」
やっと詰めていた息を吐いたように口々に言葉にして云った。
其の時を待っていたように福賀がガバット腰まで身体を起こした。
突然の事に女性たちはビックリいて反射的に浮き上がろうとして胸を押さえた。
そんな女性たちを見ることもなく静かに全身を温泉に任せてゆっくりと泳ぎ始めた。
福賀の背に彫られた龍が此処では厳しい顔でうねり始めた。
見え隠れしながら20人の前を泳ぐ。
月も朧だ。
点在する20人の並びでは25mもあるだろうか。
ゆっくりと折り返してニッコリと微笑んだ福賀は・・・。
「此れだけの事です。一時何処かの世界に行ったような気分になっていただければ
嬉しいです」
「有難うございます。素敵な別世界に行けました」
「神秘的な世界でした」
「一時、現実から離れられなした」
「それは良かったです。宴会場で待っていますからどうぞ」
そう云いながらローマ彫刻は湯から上がって歩いて行った。

「は~ぁ」
「息が詰まって苦しかった」

 宴会場は5階にある。
女性たちも湯から上がってやって来た。
此れが福賀なのか。
50cmの高さで檜造りの舞台の上で福賀は踊っていた。
お囃子と歌は伊東の芸妓たち福賀の専属バンドだ。

 サンターz.jpg

 時間は22時を回っている。
5階のスイートルームが何室かあって今夜も年配の夫婦が泊っている。
「よろしかったらお持て成しは出来ませんが入ってご覧ください」
と女将がすすめている。
「踊っていらっしゃるのは・・・?」
「其れは・・・」
「聞くだけ野暮でした(笑い)」
「はい。ご明察です」

 福賀は海外でも日本の文化の紹介として踊っている。
其の為に日本舞踊の師匠に正式に弟子入りして習っており、確かな芸だ。
踊るのは【かっぽれ】と【奴さん】この二曲に限られている。
何て云ったって彼は合気道九段・少林拳師範・気功術師ですからね。
それに加えリズム感が抜群に素晴らしい。

 踊り終わった福賀は後を芸妓たちに頼んで自室に戻って女将に松竹を呼んでくれ
るように電話する。
「解りました。何かお飲み物を?」
「任せます。よろしく」
福賀は何が欲しいとか、どうしてくれないかとか云わない。
出来るだけ任せるようにしている。
 
「失礼します。松竹さまをお連れしました」
「お~ぉ!これが福賀さんのトムソーヤーでしたか」
「露天風呂も付いていますよ。後で入り直しますか?」
「はい。是非お願いします」
女将が割り込んで来た。
「私も後でご一緒させてください」
「どうぞどうぞ。後で電話します」
「忘れていましたが、今日はクリスカス・イヴでした」

 つづく


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小説「イメージ4」

イメージ No:73

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。


語り手 雲(クモ)
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)
父方の叔父 福賀(フクガ)正人(マサト)
総理大臣 松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)
福寿司の大将 福崎(フクザキ)正人(マサト)女将 乙女(オトメ)
東西観光 福社長 山谷(ヤマタニ)海乃(ウミノ)
     取締役 車(クルマ)好人(ヨシト)
山海ホテル女将 山海(サンカイ)小波(コナミ)

 福賀と私・雲が出会ったのは湘南の小さな海岸だった。
彼は3歳で両親を交通事故で無くしており、父方の叔父に引き取られ、育てら
れた。
合気道五段の叔父に朝晩稽古をつけられ昼間は海辺に出て自然と対峙する毎日
だった。
だから、彼とは其の時からの付き合いと云って良いだろう。

 人間の頭部、両耳の下にエラがあるだろう。
それは人間が魚から変化を重ね重ねて現在の姿になった証拠なのだよ。
兎に角、人間が自然から生まれた事に間違いはない。
空から降って来たのではなければだが。
そんなこんなで自然とは切っても切れない密接な繋がりを人間は持っている。
その繋がりが極めて強い人間を人間の間で【天然】と呼んでいるらしい。
そして文明側寄りの人間から変わった人種のように扱われている。

 何事もしっかり考えたり行ったり出来る人間達からはちょっと困ったチャン
的のようだ。
福賀は可成りその系統が強い天然児として育ったと私は思っている。
そんな訳で福賀は几帳面な人間とはとても云えない。
小学校の教師をしている叔父に薦められ高校は工業高校に進み機械科だったが
中学で水彩画の先生に出会い其の作品に感動を受け自然を対象に絵を描き続け
て来たので製図は誰よりも得意だったし物を作る道具として機械との関りも悪
くなかった。

 パソコン時代になっても左程の抵抗なく馴染む事が出来た。
しかし、天然故に文章の打ち込みとなると文明側の人間の様に正確には出来ず
誤字・脱字・変換間違いが甚だしい限りで唯一彼の弱点になった。
「一本の気が山になって銅しようも中った」
「この愛だ呼んだ本は双六尾も白かった」
何て事はまだ良い方で可成りの想像力を働かさないと理解出来ない例もある。
それでも福賀の周りの人間は直観力に優れた連中なので支障なく過ごせている。

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 女性で初めての内閣総理大臣になった松竹梅子から福賀にメールが来た。
「明日、お会いしたいのですが。お願いできますでしょうか?」
政界から抜けた福賀は今、内閣府の特別顧問になっている。
「飛鳥。良いですよ」
とメールで返す。
「夕方。如何でしょうか?例のお店で」
とメールで聞かれる。
「大丈夫でし」
とメールで答える。
「だは、7時にお待ちしています」
とメールでやり取りが終わる。

 元の一般人に戻ってゆったりと過ごしているようで福賀には次から次と用事が
出来ていく。
7時ちょっと過ぎに福賀が福寿司の暖簾を分けて店に入って来る。
「お待ちしていました」
「大変なことをお願いしちゃって申し訳ない」
「いえ、とんでもないです。有難うございます」
「此れからが大変だと思いますが、よろしくお願いします」
「はい。出来る限り頑張ります」
「大将!そんな訳で例のあれ」
「あいよ!おいらも頑張ります。女将!」
「了解」

 此処ではツーと云えばカーで単語で通じ合ちゃう。
それに今日は魑魅魍魎の別世界から前総理と現総理が来ちゃってるから何時もと
違い過ぎで店内大変な緊張ぶりだ。
「皆さん、突然で申し訳ない。此れから店の伊東温泉一泊旅行になっちゃた。で、
お店は閉めます。付いて来たい人は心配させないように連絡して、来れない人は
残念だけど又今度です」
また今度なんて客は居る訳がない。

「だから云ってるでしょう。初めてだけど。だから行きたいんです」
そばで聞いてると訳が分からない連絡の仕方だけど行きたいから懸命に説明して
納得してもらおうとしている。
「お願いです。後で穴埋めは必ずしますから。宜しくお願いしますよ」
見えないのに盛んに頭を下げている。
相手も仕方がないと諦めたようで全客一緒に行くことになった。

 tantai-2.png

「東西観光です。バスが着きました」
この旅行係のように添乗員は山谷、運転は車がやって来る。
「松竹総理になったら福寿司さんも女性のお客さんが多くなったようですね」
「そうなんですよ」
女将の乙女さんが嬉しそう。
「これからは女性に頑張ってもらわなければ」
「そうですよ」
「其の為には男性に後押しを頑張っていただかなければ」
「了解。女性の頑張りを応援しますよ」
松竹は此のバスツアーは初めてではない新党「和」の結党時に乗り合わせている。
其の時から今日此の時までの話で盛り上がりバスは伊東温泉・山海ホテルに到着。

「ようこそ福寿司さまご一行と前総理と現総理お揃いでお越しくださいました」
「総理が私に相談があるらしい。後で私の部屋に案内してください」
「解りました。貸し切りは如何いたしましょう?」
「楽しみにしてるのでお願いします」
「松竹さんをお部屋にはその後でしょうか?」
「そうですね」

「皆様。先ずは大広間にお集まりください。其処でお部屋割りと貸し切りの手筈を
させていただきます。多少ですがお食事をなさって温泉から上がられたらお酒をお
楽しみください」
「大浴場露天風呂の男風呂貸し切りは何分ですか?」
「30分貸し切りにします」
「貸し切りは男風呂だけですか?」
「ご希望があれば女風呂も貸し切りにしますが」
「してください男性と同じに30分お願い出来ますか?」
「では。女風呂も貸し切り30分いたしましょう」
「わ~ぁ。やった~!有難うございます」

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 今回、初めて福寿司ご一行は男女半々になっていた。
「フクガセンムさん。やっとお考えのイメージに合ってきましたね」
女将の小波も嬉しそうだ。
「そうだね。これも女将のお陰です。私は5階の部屋に行っています」
「何かお持ちしますか?」
「今は良いです。必要なら電話します」
「解りました」
此処に来るのは福寿司のツアーだけではない。
仕事の合間に一人で山海ホテルの自分の部屋にやって来て海外との交信をしている。
フランスの美術連盟から誘いのメールが入っていたり、アラブ系の王国からも。
それらの対応を済ませえて女将に電話しよう部屋付きの露天風呂の方を見ると何か
人影のようなものが動いていた。
外壁を登って来たのかもしれない。

 つづく



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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:72

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んで参ります。

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「絵でもそうですが、説明的だと見る人が持っている想像の楽しみを奪って
しまう。それはあ互いに美味しくない」
「美味しくない?」
「そうです。先輩は上手とか下手とか云わずに美味しいとか不味しくないと
云っていて絵はそういうものなんだと教わりました」
「我々は上手下手って云いますがね」
「上手下手は技術に対してですね。それは絵を技術で受け止めているのです」
「確かにそうですね」

「上手下手の世界は絵の世界と別に在ります」
「例えば工芸とか機械の世界とか?」
「そうですね」
「福寿司の大将が握る寿司は美味しいです」
「それは気持ちがこもっているから」
「握り方じゃないですね」
「そうです。だから皆さん福寿司に来たくなるんでしょう」

「絵の世界も美味しさを楽しむ世界なんですね」
「私がパリで最初に個展を開いたときのタイトルが『美味しいものは皆で楽し
みたい』でした」
「でどんな感想が?」
「夢のような最高の料理をいただきますたと・・・とても嬉しかったです」
「トレビア~ン」
「感情で受け止めてほしい世界です」
「だからフクガセンムは福寿司にいらっしゃるって事ですね」
「そうです。その通りです」

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「大将!どうですか?」
「嬉しいね。泣けてくる」
「文章もそんなところがあると思います。読む側のそれぞれ異なった個性を尊
重して楽しみをとっておく方が良いのではないかと」
「小説の主人公やそのほかの人物の具体的なデーターが多いと決められてしま
いますね」
「その方が楽だからと思う人もいるでしょう」
「でも、それで良いのかなとの思うのですね」
「でしょう。文章も色々ですね。想像力を楽しみ合う文学と物事を正確に伝え
ようとするドキュメントの文章がありますね。その外にも私の専門分野ですが
宣伝広告のデザインでは商品の写真やイラストと商品を紹介する文、コピーが
あって此れを書く人をコピーライターと呼んでいます。デザイナーのセンスも
問われますが、コピーライターのセンスも重要です。そのヘッドコピーで広告
の大半が決まってしまう位大きな役割を持ちます」

「なるほど。ヘッドコピーですか?」
「そうです。ヘッドコピーで広告の全てが決まるくらい重要な要素です」
「本文も重要だと思いますが・・・」
「勿論です。商品の内容を伝えるためには重要ですし難しい作業です。限られ
たスペースの中ですから出来る限り少ないコピーを求められます大変ですよ」
「伺っていると、ため息が出てしまいます」
「ハハハ、全くですね」
「それに、私はデザインの事を良く知らないで入ったのですが、最初に教えら
れた事がデザインは不特定多数の人を対象にするものだと云う事でした」
「不特定多数?誰と決めずに全ての人ですね」

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「そうです」
「当たり前というか当然の事で別に特別な感じはしませんが?」
「其れよりもデザインってセンスが問われる職種って感じが強いですが」
「そうですね。センスの良し悪しが重要である事は確かです。2・3年先の感
覚を持っていなければなりません。常にです」
「2・3年先の感覚を持った人?」
「其れよりも先になるとかけ離れ過ぎて遠い夢の中になって現実的では無くな
ってしまいます」
「一般の感覚より少し先の感覚の持ち主が適正と云う事」
「そうです」

「その不特定多数を対象としてやって来た積りでしたが違ってた。それは目が
不自由で物事を形で捉えられない人たちを入れて居なかったのです」
「それは絵も広告も見える世界のモノだからでしょう」
「そうですが。でも、不特定ですからどんな状況でも入れて居ないのは特定で
不特定ではありませんでした」
「なるほど。そう云われれば確かに可笑しいですね」
「描くとか作るとかは人間の本能だ云う人が居ます。確かに文字が無い時代で
も絵は描かれています。目が不自由でも絵が好きな子が居ると思います」
「見えなくても描きたいものですか?見えなくても作りたいものですか?」
「そうだと思います。

「声が出なくても歌いたいものですか?」
「そのようです。人間同士楽しいものは一緒に楽しみ合いたいです」
「でも、どうやって?」
「見えると見えないは天と地ほどの違いがありますから、同じようには出来ま
せん。具体的な感覚は視覚だけで他の感覚は抽象感覚で形を作りません。媒体
に触覚を使う以外ありません。でも殆ど第六感に依存する事になりますが」

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「フクガセンムはひよっとして既にやってたりしてませんか?」
「さあ~どうでしょう」
「ところであっちには帰らないんですか?」
「あっちには帰らないつもりですが」
「が、ですか」
「そうです。でも何かミステリアスな香りが感じられるので或いはサスペンス
が始まるかもしれませんよ」
「よほど恨みに思われているか、邪魔に思われていらっしゃるようですね」
「大いに」

つづく



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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:71

 あらすじはNo:57にあります。
抜けてる部分は回毎に折り込んでまいります。

 福賀前総理そして早くも東西観光の社長のカラオケ開始。

 「ヨギリヨー・・・」
思いっ切り音程をはずして笑いをとる。
ツウコーラスから真面な音程に乗って楽しそうに歌い続ける。
「アリガト~オ」
みんなも嬉しくて拍手喝采だ。
「・・・カミノケガカタマデノビタラ・・・」
「カサガナイ・・・」
福賀の声は枯れていて渋い。

「ちょっとこの辺でジュエット曲を入れてほしいんですがその前に一緒に歌って
くれる人が居るかいないかですね」
「はい!」「はい!」「はい!」
と3人が手を挙げた。
「では、ジャンケンをしてください。一番勝った方が1番を二番目に勝った方が
2番をその次の方が3番をどうぞ。次の曲は今日23になったお祝いに歌わせて
いただきま~す」
温かい拍手が沸いた。

 みなさん達者ですね。
とても良い感じで歌って別れても良い人だったり、福寿司のある銀座の有楽町で
逢いましょうだったり。
そして〆は福賀がフランス語で「ラ・メール」を歌う。

一つ目のサービス・エリアに入って休憩。
福賀をチラッと見ては夫々首をかしげて行く。
それはそうでしょう。
総理だった人が辞めてこの時間に此処に居る訳がない。
それでも福賀の事が知れては不味い。
休憩もそこそこにバスに戻る。

「さ~あ。みなさん此れからは福寿司さん恒例の温泉一泊旅行特別企画フクガか
ら何でも聞いてやろうになります」
と添乗員山谷が案内する。
「本当に何でも良いんですね」
「本人から確約を取ってあります。何でも良いそうです」

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「は~い」
「どうぞ」
一つのマイクが質問者に渡され、もう一つのマイクが福賀に持たされて始まった。
「福寿司さんでは前総理はフクガセンムがニックネームになっていますね」
「はい。そのようです」
「国立アート大学をお出になって今の(株)雪月花の社長にスカウトされた時の正
月元旦に2ページ見開きで左派名変更と化粧品部門増設そしてフクガセンムの顔写
真入りの紹介記事が載った広告ページを見て凄いショックを受けた覚えがあります。
先ず入社される前に色々な会社からどの位のオファーが有りましたか?」
「そうですね。大学の先輩を通して23社からオファーをいただきました」
車内から声にならないドヨメキが起きた。

「そうでしたか。それ程に望まれていらっしゃった。それは想像以上の驚きです」
「私も驚きでした」
「なお突っ込んで伺いますが、それを振り切って雪月花に決められたのは何故?」
「沢山の会社からオファーを戴いたのは嬉しいのですが23社とも既に出来上がっ
ていて、更に新しい冒険が出来そうに無い会社でした。逆に雪月花は何か新しい事が
出来そうな予感を感じさせてくれました」
「フクガセンムの条件を全てOKして社長が自らスカウトされたって本当ですか?」
「本当です。社名変更から化粧品部門増設に関係するための条件10箇条全て受け入
れていただきました」

「そのなかに部長で入社もあったのですね」
「そうです。化粧品宣伝部・部長と開発プロジェクトのトータルマネージャーも兼ね
てです」
「入社2年目で業績が2倍になったって本当ですか」
「本当です。3年目で3倍になって社内と株主の要望を戴き役員に呼ばれ専務職を希
望しました」
「常務ではいけなかったのですか?」
「決定権のある職が良いと思ったのです」
「よく望まれた専務になられましたね」
「そうですね。確かに周りの方達が認めてくださったからだと思います」
車内から大きなため息がもれたようだ。

 落書きー0.jpg
 
「は~い」
「どうぞ
「何でもと云う事で伺いますが~じぶん党の最大派閥の会長・闇雲を贈収賄で告発し
た時に国会のテレビ中継で見ましたが決定的な証拠に赤坂でぶつかった時に見られた
刺青の一部を見ましたがあれは?」
「余りしたくない事ですが否定出来ない証拠を作らないと落せないので覚悟を決めて
やりました」
「何か昔の映画を見るようなシーンでしたが」
「確かにあれは遠山の金さんになりました」
「よりよい環境づくりには手段を選ばずでしょうか?」
「仰る通りです」
「その刺青についてお聞きしたいのですが・・・よろしいでしょうか?」
「何でもと云った手前仕方ありません」
「あの刺青はいつ?どのようにしてフクガセンムのお背中に?」

「あれは私が国立アート大学に入った時から登下校時に誰かに見られている感じが
していました。3年目の6月でした其の視線の主が現れて私は彫り師で彫辰と云う
と自己紹介されました。そして、お願いがありますと。刺青のデザインを頼まれる
のかと思っていたら六代目を継いでほしいと云われてデザイナー志望だから私には
お受けできない事ですと断りましたが断っても断っても六代目は貴方しかいないの
で何とかお願いしますと離れません。西郷さんの銅像の所まで来て私の前に回り込
み土下座をして前に何か置いたので見ると白鞘の匕首でした。きっと私を見上げた
その目を見たら魂が限界まで来て断ったら死ぬって云っていました」

 車内はシーンと静まり返って息を詰めて聞いているようだ。
「それで六代目彫辰を継ぐ事を承知されたのですか?」
「そうです。この人を死なせてはいけない。そう感じたのです」
「それでお背中の登り龍と散る桜の花弁は?」
「六代目の証拠とお守りだって彫りやがった」
「その口振りでは彫らせたくなかったって感じですが・・・?」
「それはそうでしょう。親からもらった大事な肌に墨を入れるなんて・・・しかし
六代目を継ぐ事を承知した以上は仕方なしと諦めました」

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「お守りになっているのでしょうか?」
「なっているようです」
「今までどんな時に?」
「例えば実際には専務になって最初の株主総会の時、総会屋が来た時です。あの
筋から五代目が貰ってくれた私と私が関わるところに手出し無用の血判状を見せて
今後一切関わらないように話をつけられたし、じぶん党の最大派閥の長を贈収賄で
告発して多少でも組織の環境を正常に出来ました」
「解りました。有難うございます」
では、次の方と山谷が促す。

「は~い。其の総理があの大臣のスキャンダルを野党に暴露されて任命権を問われ
て即辞任されましたね。それは何故ですか?」
それは乗り合わせている誰もが聞きたい事だった。
「責任があるものが責任をもって事にあたり過ちを起こせば辞する事で責任を取る
のは当たり前の事です。違いますか?」
反対に聞かれてしまった。
「でも、自分のスキャンダルではなければ当事者が辞する事で今までしてきてると
思いますが、フクガセンムは違いましたね」
「私が責任を取って辞する事で今後のありかたが変わってくるでしょう」
「確かに前例になります」
「その為にも私が責任を取って辞める必要があったのです。任命権の重さを考え」
「しかし、守りは万全だったのではありませんか?」
「絶対も完全もありません。私自身への攻撃は常にありました。それでも私が絶え
ていたから周りから攻めることを考えたのでしょう。姑息なやり方で陥れたのです」
「オトシイレタ?」
「そうです。スキャンダルになる状況の写真の顔に大臣の顔をはめ込んだのです」
「そんな事をしても本人が否定すれば済むことではありませんか?」
「いえ、それが今はインターネットで拡散されれば命取りになってしまうのです」
「恐ろしいですね」
「あの大臣は無い事を有る事にされてしまったのですね」
「気のゆるみだったのでしょう。人間ですから。仕方ありません。助けたかったの
ですが手遅れでした。残念です」

「お気持ちは充分解りました。出来ればもっと長く総理でいてほしかったですが何と
其の後の状況のありようにビックリしました。辞任されて松竹副総理に代行を指名し
て首班指名に移ってすんなりと松竹総理の決定であれよあれよって感じの進み方には
国民としては全て小気味よく感じられました」
「そう感じていただければ有難いです」
「今回の辞任劇は早めに女性総理誕生をイメージして形にした。そう云う事では?」
「そうです。岩上さんに手伝いを頼まれた時からイメージしていました」

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 つづく




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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:70

 あらすじはNo:57にあります。
抜けているところは回毎に折り込んでまいります。

 夕方、日比谷公園の野外音楽堂ではロックバンドのグループが集まって演奏を
していた。
「みんな~今、変な人がやって来た。でも気にしないで悪い人じゃないから」
 お~!っと観客の中から驚きの声が上がった。
演奏は乱入者に構わず続いており、今まで以上に盛り上がっている。
時々ボーカルがマイクを渡すとハスキーな声が曲に乗って紛れ込む。
ステージの両サイドに設置されたワイドスクリーンに乱入者がアップされるたびに
異様な歓声が上がる。

 何と今さっき総理を辞めて来たばかりの福賀がステージ狭しと動きまわってる。
観客の手拍子に乗って楽しそうだ。
そうだった彼は合気道と少林寺直伝の少林拳と気功術を習得した達人なのだ。
運動神経抜群でどんなリズムにも乗れる体質でもあった。
ステージに現れた時から既に上着はきていない。
何時もの黒に近いグレーのTシャツを抜いだ。
其処にはロックがあった。
恐らく民衆の前で半裸になるのは初めてに違いない。
大事に隠され封印されていた名人五代目彫辰の精魂込めた刺青。
此れこそが和の刺青だ。

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 ステージの両袖に居たガードマンがおびえている。
背中の刺青が丸出しになって観客にさらされるのだから。
今までに無かった風景に出会ってどうして良いか解らない。
まして相手は前総理だ。
観客に背中を向けないでと願う間がなかった。
くるっと後ろを向いて走り出した。
わ~!きゃ~!こんなに興奮した情景はあっただろうか。
クイーンのフレディー・マーキュリーがマイクを持ってステップを踏んでるよう
に福賀は観客に背を向けてステップを踏んでいる。
そしてステージの中央で前を向くと大きく両腕を開いて叫んだ。
「有難う。本当に有難う」
そしてまた後ろを向いてバンドのメンバーに深々と頭を下げて去って行った。

 記者たちが来た時には既に彼の姿は無かった。
「本当に福賀前総理だったのか?」
「偽物が居るんですか?」
「居ることは居るんだけれど・・・」
「龍の彫り物があった」
「え~。本当に?じゃあ本物だ。しまった!残念また逃げられたか」
地団太を踏むってこんな感じなんだろう。
ロッカーたちはそれを見て喜んでいる。
「俺たちラッキー」

 19時半ごろ、福寿司の暖簾をくぐって一人の男が入って来た。
「えらっしゃい。おおっ!」
大将がビックリして大きな声を上げた。
「女将!」
「あいよ」
二人がアイコンタクトを取り合って動く。
暖簾を外して店の中に入れ、外の灯りを消して中から鍵を掛けてしまった。
常連客に連れられてきた客は何事が起ったのだろうと怪訝な顔をしている。
女将が3か所に電話を掛けている。
「お前さん。赤坂の店には記者さんが来てるからパスだって。後はOKです」

 線ー4.jpg
ペイントで気の向くまま描いてみました。

「って訳でね。今日は此れから店の伊東温泉・一泊旅行になりやした。で、店は
お仕舞だよ。一緒に往きたい人は拒みません。心配されないように連絡して。行
けない人は残念だけど又来てね」
店内は携帯で電話する人で盛り上がっている。
「福寿司さんに居るんだけど此れからお店が温泉一泊旅行になったので帰れなく
なったから宜しく。何でって、いい機会だから一緒に往くんです。何でって、特
別だからです。何が特別かって、それは帰ってから話すので楽しみにして。私だ
け狡いって、必ず埋め合わせはするから」

 福賀が一緒な事は伏せてだから説得が難航している。
それでも何とか連絡先に話をつけてバスの到着をみんなが待っている。
「福さん。お疲れ様だったね。何からいきますか?」
「大将にお任せで宜しくお願いします」
「そうですか。任せてもらってアナゴからいましょう」
女将がニコニコしながら久保田の萬壽とお茶をもってくる。
「お疲れさまでした。本当にご苦労様でした」
「いつもお世話になります。有難うございます。此れからもよろしくです」
「はい。こちらこそよろしくです」

 30分程しただろうか。
「東西観光です。バスが着きましたので、お店のお客様からどうぞ」
店の者は後片付けを済ませて、完了を確認して乗り込んだ。
「本日は東西観光をご利用いただき有難うございます。福寿司さまご一行伊東温泉
一泊旅行は久し振りでして、それも誰かさんが政界なんかに行っていたからでして
帰って来た前総理、帰ってきた社長って訳でございます。此れからは毎日でも福寿
司さま恒例のご旅行をと期待しております」
車内から大きな拍手が上がった。

 ぺんー2.jpg
ペイントで遊んでみました。

「此の福寿司さま恒例になりましたご旅行は福賀が雪月花の専務になられて間の無
い頃と伺っております。そして今は私共の社長に戻られていますがご心配ご無用で
でございます。出発からお帰りまで経費は全部福賀持ちになっていますのでご心配
なさらずお楽しみください。僭越ながら福寿司の大将に成り代わり私がご説明させ
ていただきました」
また大きな拍手だ。
「そして行先は福賀の定宿になっています伊東温泉・山海ホテルでございます。道
中のバスの運行も是非お楽しみください。福賀直伝の運転でして東西観光の売りに
なっています。では改めまして皆さまとご一緒させていただく添乗員は山谷海乃(
やまたにうみの)福賀の命により副社長にさせられました。運転は車好人(くるま
よしと)常務取締役です。どうぞ宜しくお願いいたします」
またまた大きな拍手だ。

「は~い」
乗客から手が上がった。
「何かご質問でしょうか?」
「そうです。私は日本人の中高年の男性でして。だからと云うと語弊がありますが~
つい歳を聞きたくなるんです」
「はい」
「添乗員さんは副社長と伺いましたがお幾つでしょうか?」
「では。此処でクイズ。幾つだか当ててください」
「え~?幾つかな?30歳でどうでしょう?」
「残念です。外れました」
他の乗客が手を挙げた」
「どうぞ」
「28歳」
「外れです」
また他から手が挙がった」
「25歳」
「残念でした。はずれです」
「え~いったいお幾つで?」
「私は高卒で入社して一年目に企画部の部長にさせられました」
「一年目で部長に。誰がしたんですか?」
「福賀社長です」
「そう云えば福賀前総理は大学から部長で(株)雪月花に入社されたのでしたね」
「二年目に福賀社長が政界に行かれて、私を取締役にしていかれました.。戻ってこら
れて副社長にさせられました。そして今日23歳になりました」
「しゃ~~~23歳!いやいや参りました。それはそれはおめでとうございます」
「ビックリです。まさか23歳。大学出た歳が23歳ですよ」
「福賀さんって何て人でしょう」
「先ず一般的な常識を超えています」

 IMG_20231128_155349.jpg
パステルで雪景色を描いてみました。

「歳は関係ありません」
出て来ましたよ。
「福賀です。私の気まぐれにお付き合いいただき有難うございます。山谷は特殊な
企画力を持っていて、周りの人たちにも人望があって努力家だし役が付いて更に力
を出せる人として貴重な存在と私は思っています。それぞれ人は其の人なりの役柄
を持っているものでして、其の役柄で生きる事が自然です。では齢の話は此処まで
として彼方に着くまで色々と、彼方に着いたら色々と楽しみ一杯の旅行になります
ように、よろしくお願いいたします。新副社長と新取締役の運転でまいります。新
でないのは私だけハハハ。皆さん良い事ばかりと思ったら大変な間違いですよ。此
れからサービスエリアで休憩して彼方に着くまで何があるか。それは私のカラオケ
でしっかり辛い思いをしていただきます。今から逃げようったって駄目です。皆さ
ん覚悟めされよははは」

 つづく


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