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小説「イメージ4」

イメージ No:74

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。

書いているのは雲(クモ)
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)前・総理大臣
その他 松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)現・総理大臣
    山海(サンカイ)小波(コナミ)山海ホテルの女将
    福崎(フクザキ)正人(マサト)福寿司の大将

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 月の灯りが差し込んでくる5階の自室でパソコンからメールに返信し終えた
福賀がふと部屋付き露天風呂に目をやると人影が見えた。
素早く赤外線グラスを付けて室内の灯りを全て消した。
露天風呂は外側に柵があるだけだ。
暗闇の中で月明かりを背に3つのシルエットが中に入って来た。
部屋のドアを開けて福賀は風呂場に入る。
月を私(雲)は隠した。
その瞬間に福賀は動いた左に右に中央に、殆ど一瞬だった。
恐らく、福賀の行動を封じるように頼まれたヒットマンだろう。
福賀は先ずは、彼らの動きを止めた。
次に気を失わせた。
女将に電話して信頼出来る体力のある従業員を二人連れて部屋に来てほしいと。
 気絶した三人は運搬用のエレベーターで地下まで運び福賀が自分の車で帰りの
高速道路の路肩まで運び放置した。
彼らの身元が解らないようにパスポートは取り上げて破棄した。
巡廻してホテルに帰った福賀は予定通り貸し切り大浴場男風呂へと向かって行く。
 入り口で従業員に挨拶をして中に入る。
中に居るのは20人ちょっとだろうか。
洗い場で身体を洗ってプールの様な湯船に浸かってフクガキヨシ専務を待っている。

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「失礼します」
いつもの挨拶だ。
格好よく身体に掛け湯をして湯の中に入って来た。
「う~ん」
と首まで入って唸った。
外は可成り冷えている。
それに、背負っていた大役を降ろして好きな温泉に身体を沈めて安堵したのだろう。
「ほって一息だね。福さん」
大将が労う。
「大変お世話になりました。大将はじめ皆さんのお陰です」
「いや~ぁ、良くやってくれました。有難う」
「あんなに仕手くれるとは思っても居ませんでした」
「やらせてくれと頼んでじゃなく、頼まれてやったんだから凄いです」
「頼まれるってのが先ず凄いよね」
「頼んだ方も凄くないですか?」
「そうだね。良く頼んだよね」
「その話は何れまたにして、背中のモノが泳ぎたがっているので・・・」
「そうだ。たっぷり泳いでください」
「私たちも拝ませていただきます」
福賀のお守り五代目彫辰の龍も今日はニコニコ笑っているようだ。
泳ぐ福賀も楽しそうに身体をねじったりして楽しそうだ。
「では、お先に・・・彼方の方に行ってきます」
 大浴場女風呂の前に従業員が二人福賀の来るのを待っていた。
一人が中に入って福賀が来たことを告げた。
今までざわついていた風呂場の中が其の知らせでし~んと静まり返った。
日本で初めての女性の内閣総理大臣を作り上げた福賀が裸で入って来る。
20人程の女性たちは肩まで湯の中に沈んでいる。
まして個々の温泉は乳白色だから方から下は隠れている。
それでも裸でいる感覚のままだから不思議だ。
内はテレビの旅番組の様にバスタオルを巻いての入浴は居ていただきませんと女将に
云われている。
そうした事は此のツアーの先輩から聞いた上で参加している。
 今の山海ホテルは福賀が最初に来た時、女将に相談されてリニューアルを手伝って
1階フロアーのホール壁面に福賀が国際アート・フェスティバルでグランプリを取っ
た作品を西陣で織ってもらったタペストリーが飾られており、各部屋ごとに福賀の作
品があり、部屋付き露天風呂を何室作らせ、トイレを自然より落ち着く漢字にした。
更に、大浴場を男風呂・女風呂ともに壁面をタイルで飾った。
其処にローマ彫刻を思わせる福賀が入って来た。

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「失礼します」
と云って福賀が入ってくるのが福寿司ご一行ツアーのイベントになってしまった。
既に男風呂で身体を洗って来ているので、湯船の淵に来て掛け湯をして湯の中に入っ
てしまった。
其れこそ首まで頭を残した状態で暫くじっと息を殺している風だった。
女性たちも其れまで全員が肩まで沈んだままで目を閉じている。
「皆さん。こんばんは。もう目を開けても良いんじゃないですか?良い湯加減です」
福賀の一声で先ず女性を代表して松竹が声を出した。
彼女は今夜が二度目だろうか。
「はい。仰る通り気持ちが休まる良い湯加減です」
「そうでしょう。皆さん如何ですか?」
「はい。良い湯加減です」
やっと詰めていた息を吐いたように口々に言葉にして云った。
其の時を待っていたように福賀がガバット腰まで身体を起こした。
突然の事に女性たちはビックリいて反射的に浮き上がろうとして胸を押さえた。
そんな女性たちを見ることもなく静かに全身を温泉に任せてゆっくりと泳ぎ始めた。
福賀の背に彫られた龍が此処では厳しい顔でうねり始めた。
見え隠れしながら20人の前を泳ぐ。
月も朧だ。
点在する20人の並びでは25mもあるだろうか。
ゆっくりと折り返してニッコリと微笑んだ福賀は・・・。
「此れだけの事です。一時何処かの世界に行ったような気分になっていただければ
嬉しいです」
「有難うございます。素敵な別世界に行けました」
「神秘的な世界でした」
「一時、現実から離れられなした」
「それは良かったです。宴会場で待っていますからどうぞ」
そう云いながらローマ彫刻は湯から上がって歩いて行った。

「は~ぁ」
「息が詰まって苦しかった」

 宴会場は5階にある。
女性たちも湯から上がってやって来た。
此れが福賀なのか。
50cmの高さで檜造りの舞台の上で福賀は踊っていた。
お囃子と歌は伊東の芸妓たち福賀の専属バンドだ。

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 時間は22時を回っている。
5階のスイートルームが何室かあって今夜も年配の夫婦が泊っている。
「よろしかったらお持て成しは出来ませんが入ってご覧ください」
と女将がすすめている。
「踊っていらっしゃるのは・・・?」
「其れは・・・」
「聞くだけ野暮でした(笑い)」
「はい。ご明察です」

 福賀は海外でも日本の文化の紹介として踊っている。
其の為に日本舞踊の師匠に正式に弟子入りして習っており、確かな芸だ。
踊るのは【かっぽれ】と【奴さん】この二曲に限られている。
何て云ったって彼は合気道九段・少林拳師範・気功術師ですからね。
それに加えリズム感が抜群に素晴らしい。

 踊り終わった福賀は後を芸妓たちに頼んで自室に戻って女将に松竹を呼んでくれ
るように電話する。
「解りました。何かお飲み物を?」
「任せます。よろしく」
福賀は何が欲しいとか、どうしてくれないかとか云わない。
出来るだけ任せるようにしている。
 
「失礼します。松竹さまをお連れしました」
「お~ぉ!これが福賀さんのトムソーヤーでしたか」
「露天風呂も付いていますよ。後で入り直しますか?」
「はい。是非お願いします」
女将が割り込んで来た。
「私も後でご一緒させてください」
「どうぞどうぞ。後で電話します」
「忘れていましたが、今日はクリスカス・イヴでした」

 つづく


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