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小説「イメージ4」

イメージ No:73

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。


語り手 雲(クモ)
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)
父方の叔父 福賀(フクガ)正人(マサト)
総理大臣 松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)
福寿司の大将 福崎(フクザキ)正人(マサト)女将 乙女(オトメ)
東西観光 福社長 山谷(ヤマタニ)海乃(ウミノ)
     取締役 車(クルマ)好人(ヨシト)
山海ホテル女将 山海(サンカイ)小波(コナミ)

 福賀と私・雲が出会ったのは湘南の小さな海岸だった。
彼は3歳で両親を交通事故で無くしており、父方の叔父に引き取られ、育てら
れた。
合気道五段の叔父に朝晩稽古をつけられ昼間は海辺に出て自然と対峙する毎日
だった。
だから、彼とは其の時からの付き合いと云って良いだろう。

 人間の頭部、両耳の下にエラがあるだろう。
それは人間が魚から変化を重ね重ねて現在の姿になった証拠なのだよ。
兎に角、人間が自然から生まれた事に間違いはない。
空から降って来たのではなければだが。
そんなこんなで自然とは切っても切れない密接な繋がりを人間は持っている。
その繋がりが極めて強い人間を人間の間で【天然】と呼んでいるらしい。
そして文明側寄りの人間から変わった人種のように扱われている。

 何事もしっかり考えたり行ったり出来る人間達からはちょっと困ったチャン
的のようだ。
福賀は可成りその系統が強い天然児として育ったと私は思っている。
そんな訳で福賀は几帳面な人間とはとても云えない。
小学校の教師をしている叔父に薦められ高校は工業高校に進み機械科だったが
中学で水彩画の先生に出会い其の作品に感動を受け自然を対象に絵を描き続け
て来たので製図は誰よりも得意だったし物を作る道具として機械との関りも悪
くなかった。

 パソコン時代になっても左程の抵抗なく馴染む事が出来た。
しかし、天然故に文章の打ち込みとなると文明側の人間の様に正確には出来ず
誤字・脱字・変換間違いが甚だしい限りで唯一彼の弱点になった。
「一本の気が山になって銅しようも中った」
「この愛だ呼んだ本は双六尾も白かった」
何て事はまだ良い方で可成りの想像力を働かさないと理解出来ない例もある。
それでも福賀の周りの人間は直観力に優れた連中なので支障なく過ごせている。

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 女性で初めての内閣総理大臣になった松竹梅子から福賀にメールが来た。
「明日、お会いしたいのですが。お願いできますでしょうか?」
政界から抜けた福賀は今、内閣府の特別顧問になっている。
「飛鳥。良いですよ」
とメールで返す。
「夕方。如何でしょうか?例のお店で」
とメールで聞かれる。
「大丈夫でし」
とメールで答える。
「だは、7時にお待ちしています」
とメールでやり取りが終わる。

 元の一般人に戻ってゆったりと過ごしているようで福賀には次から次と用事が
出来ていく。
7時ちょっと過ぎに福賀が福寿司の暖簾を分けて店に入って来る。
「お待ちしていました」
「大変なことをお願いしちゃって申し訳ない」
「いえ、とんでもないです。有難うございます」
「此れからが大変だと思いますが、よろしくお願いします」
「はい。出来る限り頑張ります」
「大将!そんな訳で例のあれ」
「あいよ!おいらも頑張ります。女将!」
「了解」

 此処ではツーと云えばカーで単語で通じ合ちゃう。
それに今日は魑魅魍魎の別世界から前総理と現総理が来ちゃってるから何時もと
違い過ぎで店内大変な緊張ぶりだ。
「皆さん、突然で申し訳ない。此れから店の伊東温泉一泊旅行になっちゃた。で、
お店は閉めます。付いて来たい人は心配させないように連絡して、来れない人は
残念だけど又今度です」
また今度なんて客は居る訳がない。

「だから云ってるでしょう。初めてだけど。だから行きたいんです」
そばで聞いてると訳が分からない連絡の仕方だけど行きたいから懸命に説明して
納得してもらおうとしている。
「お願いです。後で穴埋めは必ずしますから。宜しくお願いしますよ」
見えないのに盛んに頭を下げている。
相手も仕方がないと諦めたようで全客一緒に行くことになった。

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「東西観光です。バスが着きました」
この旅行係のように添乗員は山谷、運転は車がやって来る。
「松竹総理になったら福寿司さんも女性のお客さんが多くなったようですね」
「そうなんですよ」
女将の乙女さんが嬉しそう。
「これからは女性に頑張ってもらわなければ」
「そうですよ」
「其の為には男性に後押しを頑張っていただかなければ」
「了解。女性の頑張りを応援しますよ」
松竹は此のバスツアーは初めてではない新党「和」の結党時に乗り合わせている。
其の時から今日此の時までの話で盛り上がりバスは伊東温泉・山海ホテルに到着。

「ようこそ福寿司さまご一行と前総理と現総理お揃いでお越しくださいました」
「総理が私に相談があるらしい。後で私の部屋に案内してください」
「解りました。貸し切りは如何いたしましょう?」
「楽しみにしてるのでお願いします」
「松竹さんをお部屋にはその後でしょうか?」
「そうですね」

「皆様。先ずは大広間にお集まりください。其処でお部屋割りと貸し切りの手筈を
させていただきます。多少ですがお食事をなさって温泉から上がられたらお酒をお
楽しみください」
「大浴場露天風呂の男風呂貸し切りは何分ですか?」
「30分貸し切りにします」
「貸し切りは男風呂だけですか?」
「ご希望があれば女風呂も貸し切りにしますが」
「してください男性と同じに30分お願い出来ますか?」
「では。女風呂も貸し切り30分いたしましょう」
「わ~ぁ。やった~!有難うございます」

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 今回、初めて福寿司ご一行は男女半々になっていた。
「フクガセンムさん。やっとお考えのイメージに合ってきましたね」
女将の小波も嬉しそうだ。
「そうだね。これも女将のお陰です。私は5階の部屋に行っています」
「何かお持ちしますか?」
「今は良いです。必要なら電話します」
「解りました」
此処に来るのは福寿司のツアーだけではない。
仕事の合間に一人で山海ホテルの自分の部屋にやって来て海外との交信をしている。
フランスの美術連盟から誘いのメールが入っていたり、アラブ系の王国からも。
それらの対応を済ませえて女将に電話しよう部屋付きの露天風呂の方を見ると何か
人影のようなものが動いていた。
外壁を登って来たのかもしれない。

 つづく



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