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小説「イメージ4」

イメージ No:86

 あらすじはNo:57にあります。
抜けた部分は回毎に折り込んでまいります。

語り手 空に浮かぶ「雲」の私
主人公 福賀(フクガ)貴義(キヨシ)
    3歳の時に交通事故で両親を失う。
    父方の叔父に合気道を教えられながら育つ。
    住まいに近い海岸で自然と向き合い絵を描く事で会話を交わすように
    なる。
    国立アート大学に進み、全ての時間を使い自力を高める。
    2か月の夏休みに中国に渡り、河南省中岳嵩山の中の少室山の北麓に
    ある寺院少林寺に入門。
    少林拳と気功術を習得して師範の資格を戴く。
    合気道は大学1年の時点で九段。
    大学3年の秋に(株)雪月花(旧)雪月花石鹸株式会社・社長月下に
    スカウトされ新設の化粧品部門の宣伝部・部長で入社。
    4年目に役員として参加を望まれ専務を希望し経営に参加。
    その2年後ナミカと結婚パリ旅行の当日にじぶん党総裁候補山上に手
    伝いを頼まれ副総理を条件に承知して政界に入る。
    山上総理が健康上の理由で引退を期に民間に戻るもみんなの党の大海
    (党首)に誘われ新党「和」の党長になり総選挙で大勝し、内閣総理
    大臣になる。
    この段階で副総理に松竹梅子を置き次につながるように図るが閣僚の
    一人が反対勢力に計られスキャンダルに巻き込まれ任命責任を問われ
    辞任し再度民間に戻り(株)雪月花・副社長(株)東西観光・社長
    フランス航空・副社長 全国ホテル旅館組合・顧問 全国漁農組合・
    顧問 全国女性経営者連盟・顧問
    35歳
    
    福賀(フクガ)ナミカ NPOナミカ理事長 福賀貴義の妻
    月下(ツキシタ)達雄(タツオ)株式会社雪月花・社長 ナミカの父

    山海(サンカイ)小波(コナミ)伊東温泉 山海ホテル 女将
    福崎(フクザキ)正人(マサト)銀座 福寿司 大将
            乙女(オトメ)       女将
    山谷(ヤマタニ)海乃(ウミノ)株式会社東西観光・副社長 
     車(クルマ) 好人(ヨシト)  〃      取締役
    松竹(マツタケ)梅子(ウメコ)現・内閣総理大臣 新党「和」党長

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 永年の社長職で心労が溜まり心筋梗塞を起こし倒れたが伊東温泉・山海ホテ
ルからヘリコプターで駆け付けた福賀の気功で三途の川から引き戻された月下
は今、福寿司恒例の温泉一泊旅行に参加している。

「月下さんで良いですか」
福寿司の大将が初めに気になる呼び方を聞いて来た。
「はい。それで宜しくお願いします」
これで月下も大将も気兼ねない感じで落ち着いたようだ。
「私が云うのも何ですが、月下だん、此れから後の会社は福さんに任せて会長
さんで今までと違った風景を楽しんでください。今日はその門出のお祝いをし
ましょう。先ずは恒例の「貸し切り大浴場露天風呂で福さんと裸の付き合いを
しながら現実と離れた世界を楽しみましょ」」


 月下は呑み歩く訳じゃなし、会社とゴルフしか外の世界を知らない。
まして福賀が自由に飛び回っている実態に触れたことがない。
福賀との約束は自由に思いのままに動いて良い事だった。

フランスに(株)雪月花の支社を作りました。
フランスに合弁会社を作りました。
中国に雪月花化粧品店を作りましたなどと報告を受ける事で彼の行動を知っ
ていた。

 その今まで知る事が無かった福賀の部分を此れから伺えそうだ。
大将に任せて付いて行こうと月下は心を決めて此れからの展開に期待した。
いつの間にか福賀は姿を消していた。
きっと自分の3階の部屋でパソコンをチェックしているのだろう。
「温泉をお楽しみいただきましたら5階の宴会場にお集まりいただきお食事
とお酒を召し上がっていただきます。他にお楽しみのプラスもございます」

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 女将が最初は男性の方から、次に女性の方になります。一度皆さんお部屋に
お荷物を置かれてロビーのホールでお待ちください。用意が出来ましたらご案
内にまいりますと告げて居なくなった。
病み上がりの月下を気遣って最上階5階のスイートルームを割り当ててくれた。
女将に礼を言って月下が福賀を探したが見当たらない。
「大将。福賀は?」
「何か用事があるのでしょう。女将が来て案内されたら大浴場に行きましょう」
「何が何だか皆目見当が付きませんが・・・」
「そうでしょう。其処が此の旅行の良いところです」
ロビーに降りてホールに行くと初めて福賀のタペストリーが月下の目に入った。
「あれは・・・?」
いつの間にか女将が近くに居て声を掛けて来た。
「あれは福賀さんにお願いしてリニューアルしていただいた時にホテルのポイン
トにとご自分の作品を京都で西陣織でタペストリーに仕立ててくださいました」
「あぁそうでしたか。彼が国際アート・フェスティバルでグランプリを取った例
の作品を西陣織でタペストリーに」
アクリル絵の具で描いた作品はフランスの美術館が買い上げている。
「私にとっては彼が受賞した件と日本広告アート連盟の学生で初めて会員になっ
た新聞記事が生涯忘れられない出来事でした其れを
が彼との出会いでしたから」
「そうでしたか」
「感慨深い気持ちが蘇りました。来て良かったです」
「私もお会い出来て良かったです。そろそろ大浴場露天風呂が貸し切りになりま
すので二階にどうぞ。温泉をお楽しみいただきましたら5階の宴会場に上がって
ください。細やかですがお食事とお酒の用意をさせていただきます」

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 常連でも初めての客は何で貸し切りなのか何度か来てる常連に聞いている。
「其れはな。福さんに一般の人と一緒に入れないものがあるからなんだよ」
と福寿司の大将が代わりに答えている。
男性で成人なら大体見当がつく。
女性の場合は機会均等と云っても一般的な認識に違いがあるから友達に聞いたり
して納得している。
運良く福寿司の旅行に同行出来たので思い切って参加してみようと意を決して貸
し切り券を貰いに行く。
「では、男性の方から時間をお知らせします。その前にお部屋割を、そしてお風
呂から上がられたら最上階と云っても5階ですが宴会場にお食事とお酒を用意さ
せていただきますのでお集まりください。女性の方も少しずらして貸し切りにい
たします。上がられましたら5階の宴会場へどうぞ」

 月下は女将の説明を聞いていて何事が起きたのだろうと福賀に聞こうと探したが
見当たらない。
女将の計らいで月下には5階のスイートルームが割り当てられた。
病み上がりでもあるので福賀も一緒に付き合う事に決めていた。
3階の福賀の部屋もあるが今日のところは未だ見せずに伏せておこう。
色々あるがさらけ出すのも程々が良いだろう。


「皆さんお入りになりました」
「有難う。お世話になります」

「失礼します」
此れが福賀の挨拶だ。
福賀は皆が浴槽の淵に程よい間隔で並んで使っているところを右端から入って行
った。
「いや~ぁ前回はホテルに着いて直ぐヘリでとんぼ返りでした。幸いに今日は親
父と一緒に来ることが出来て良かったです」
柄にもなくおどけて福賀は静かに福寿司一行に挨拶をした。
そう云うと腰まで立ち上がって皆が並んでいる前をゆっくりと泳ぎ始めた。
少しだけど温まった福賀の身体は背中の桜の花弁をほんのり紅を薄めて色付けて
色っぽく、きりっと顔を引き締めた龍が厳しい存在感を放っている。
月下は初めて福賀の背中に彫られた龍にお目に掛って度肝を抜かれ言葉を失った。
この瞬間に次元の違う世界に月下の中の風景も変わった。
福寿司の常連たちは福賀が醸し出すこの瞬間を待ち望んでいたに違いない。
この彫り物は名人五代目彫辰が命懸けで六代目を福賀に継いでもらったお礼と云
うかお守りとして彫ったものだ。
日本の刺青は本来魂を内に秘めて彫られたもので人に見せるものではない。
「皆さんと信頼関係を結びたい私の気持ちです。他言無用でお願いいたします」
10分も居ただろうか。
「お先に失礼します。後ほど宴会場で」

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 そして女風呂へ。
「皆さんお入りになっています」
「お世話になります」
脱衣所で裸になり、手拭をもって大浴場露天風呂に入って行った。
静かだ。
湯気こそ無いが熱をもった空気がやけに張りつめている。
「失礼します」
凛とした福賀の声が優しく響く。
此処でも浴槽の淵を背にして良い感じの間隔で並んでいる。
湯面からは首から上しか出ていない。
ここの大浴場の温泉は乳白色で浸かっている身体は隠れているのだが。
男湯と同じに福賀は右端に回り込んで身体を沈めた。
「私は家に居る時は生まれたままの姿で過ごして居ます。それが自然だから」
20人程の中で緊張しているのだろう、何人か小刻みに身体を揺すっている。
流石だ。
日本で初めて内閣総理大臣になった松竹梅子が口を切って答えた。
「前総理いや福賀さんは自然を大事に思われて大切になさっていらっしゃるから」
「そうです。自然ほど大切なものは無いと思います」
「自然から生き物は生まれたから?」
「そうです。自然から生まれたのでなければ何処から生まれたのでしょう」
「空から降って来たなんて事は無いですよね」
「そうですよね」
「だから自然を大事に思って大切にしなければ人間は生きられないでしょう」
「それから、福賀さんは夫々が持ち合っている違いについて色々お考えになってい
らっしゃる」
「そうです。自然を大切にする事と自然が造った様々な違いも大事ですね」
「解るような気がします」
「これも大事で大切な問題で我々の課題だと思います」
「なるほど。大事な自然と自然が造った違いですか?」
「そうです。夫々顔が違いますね。同じだったらどうなりますか?」
「考えられません」
「そうでしょう。違うから良いので、同じだったら混乱してしまうでしょう」

そう云いながら福賀は左に向かって泳ぎ出した。
湯面は優しく波立ち女性たちを慌てさせた。
この瞬間に外とつながる空間に異次元の世界が現れたに違いない。
「では、お先に失礼して5階の宴会場で又お会いしましょう」
宴会場には何かが用意され福賀を待っていた。

 つづく


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