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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:70

 あらすじはNo:57にあります。
抜けているところは回毎に折り込んでまいります。

 夕方、日比谷公園の野外音楽堂ではロックバンドのグループが集まって演奏を
していた。
「みんな~今、変な人がやって来た。でも気にしないで悪い人じゃないから」
 お~!っと観客の中から驚きの声が上がった。
演奏は乱入者に構わず続いており、今まで以上に盛り上がっている。
時々ボーカルがマイクを渡すとハスキーな声が曲に乗って紛れ込む。
ステージの両サイドに設置されたワイドスクリーンに乱入者がアップされるたびに
異様な歓声が上がる。

 何と今さっき総理を辞めて来たばかりの福賀がステージ狭しと動きまわってる。
観客の手拍子に乗って楽しそうだ。
そうだった彼は合気道と少林寺直伝の少林拳と気功術を習得した達人なのだ。
運動神経抜群でどんなリズムにも乗れる体質でもあった。
ステージに現れた時から既に上着はきていない。
何時もの黒に近いグレーのTシャツを抜いだ。
其処にはロックがあった。
恐らく民衆の前で半裸になるのは初めてに違いない。
大事に隠され封印されていた名人五代目彫辰の精魂込めた刺青。
此れこそが和の刺青だ。

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 ステージの両袖に居たガードマンがおびえている。
背中の刺青が丸出しになって観客にさらされるのだから。
今までに無かった風景に出会ってどうして良いか解らない。
まして相手は前総理だ。
観客に背中を向けないでと願う間がなかった。
くるっと後ろを向いて走り出した。
わ~!きゃ~!こんなに興奮した情景はあっただろうか。
クイーンのフレディー・マーキュリーがマイクを持ってステップを踏んでるよう
に福賀は観客に背を向けてステップを踏んでいる。
そしてステージの中央で前を向くと大きく両腕を開いて叫んだ。
「有難う。本当に有難う」
そしてまた後ろを向いてバンドのメンバーに深々と頭を下げて去って行った。

 記者たちが来た時には既に彼の姿は無かった。
「本当に福賀前総理だったのか?」
「偽物が居るんですか?」
「居ることは居るんだけれど・・・」
「龍の彫り物があった」
「え~。本当に?じゃあ本物だ。しまった!残念また逃げられたか」
地団太を踏むってこんな感じなんだろう。
ロッカーたちはそれを見て喜んでいる。
「俺たちラッキー」

 19時半ごろ、福寿司の暖簾をくぐって一人の男が入って来た。
「えらっしゃい。おおっ!」
大将がビックリして大きな声を上げた。
「女将!」
「あいよ」
二人がアイコンタクトを取り合って動く。
暖簾を外して店の中に入れ、外の灯りを消して中から鍵を掛けてしまった。
常連客に連れられてきた客は何事が起ったのだろうと怪訝な顔をしている。
女将が3か所に電話を掛けている。
「お前さん。赤坂の店には記者さんが来てるからパスだって。後はOKです」

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ペイントで気の向くまま描いてみました。

「って訳でね。今日は此れから店の伊東温泉・一泊旅行になりやした。で、店は
お仕舞だよ。一緒に往きたい人は拒みません。心配されないように連絡して。行
けない人は残念だけど又来てね」
店内は携帯で電話する人で盛り上がっている。
「福寿司さんに居るんだけど此れからお店が温泉一泊旅行になったので帰れなく
なったから宜しく。何でって、いい機会だから一緒に往くんです。何でって、特
別だからです。何が特別かって、それは帰ってから話すので楽しみにして。私だ
け狡いって、必ず埋め合わせはするから」

 福賀が一緒な事は伏せてだから説得が難航している。
それでも何とか連絡先に話をつけてバスの到着をみんなが待っている。
「福さん。お疲れ様だったね。何からいきますか?」
「大将にお任せで宜しくお願いします」
「そうですか。任せてもらってアナゴからいましょう」
女将がニコニコしながら久保田の萬壽とお茶をもってくる。
「お疲れさまでした。本当にご苦労様でした」
「いつもお世話になります。有難うございます。此れからもよろしくです」
「はい。こちらこそよろしくです」

 30分程しただろうか。
「東西観光です。バスが着きましたので、お店のお客様からどうぞ」
店の者は後片付けを済ませて、完了を確認して乗り込んだ。
「本日は東西観光をご利用いただき有難うございます。福寿司さまご一行伊東温泉
一泊旅行は久し振りでして、それも誰かさんが政界なんかに行っていたからでして
帰って来た前総理、帰ってきた社長って訳でございます。此れからは毎日でも福寿
司さま恒例のご旅行をと期待しております」
車内から大きな拍手が上がった。

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ペイントで遊んでみました。

「此の福寿司さま恒例になりましたご旅行は福賀が雪月花の専務になられて間の無
い頃と伺っております。そして今は私共の社長に戻られていますがご心配ご無用で
でございます。出発からお帰りまで経費は全部福賀持ちになっていますのでご心配
なさらずお楽しみください。僭越ながら福寿司の大将に成り代わり私がご説明させ
ていただきました」
また大きな拍手だ。
「そして行先は福賀の定宿になっています伊東温泉・山海ホテルでございます。道
中のバスの運行も是非お楽しみください。福賀直伝の運転でして東西観光の売りに
なっています。では改めまして皆さまとご一緒させていただく添乗員は山谷海乃(
やまたにうみの)福賀の命により副社長にさせられました。運転は車好人(くるま
よしと)常務取締役です。どうぞ宜しくお願いいたします」
またまた大きな拍手だ。

「は~い」
乗客から手が上がった。
「何かご質問でしょうか?」
「そうです。私は日本人の中高年の男性でして。だからと云うと語弊がありますが~
つい歳を聞きたくなるんです」
「はい」
「添乗員さんは副社長と伺いましたがお幾つでしょうか?」
「では。此処でクイズ。幾つだか当ててください」
「え~?幾つかな?30歳でどうでしょう?」
「残念です。外れました」
他の乗客が手を挙げた」
「どうぞ」
「28歳」
「外れです」
また他から手が挙がった」
「25歳」
「残念でした。はずれです」
「え~いったいお幾つで?」
「私は高卒で入社して一年目に企画部の部長にさせられました」
「一年目で部長に。誰がしたんですか?」
「福賀社長です」
「そう云えば福賀前総理は大学から部長で(株)雪月花に入社されたのでしたね」
「二年目に福賀社長が政界に行かれて、私を取締役にしていかれました.。戻ってこら
れて副社長にさせられました。そして今日23歳になりました」
「しゃ~~~23歳!いやいや参りました。それはそれはおめでとうございます」
「ビックリです。まさか23歳。大学出た歳が23歳ですよ」
「福賀さんって何て人でしょう」
「先ず一般的な常識を超えています」

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パステルで雪景色を描いてみました。

「歳は関係ありません」
出て来ましたよ。
「福賀です。私の気まぐれにお付き合いいただき有難うございます。山谷は特殊な
企画力を持っていて、周りの人たちにも人望があって努力家だし役が付いて更に力
を出せる人として貴重な存在と私は思っています。それぞれ人は其の人なりの役柄
を持っているものでして、其の役柄で生きる事が自然です。では齢の話は此処まで
として彼方に着くまで色々と、彼方に着いたら色々と楽しみ一杯の旅行になります
ように、よろしくお願いいたします。新副社長と新取締役の運転でまいります。新
でないのは私だけハハハ。皆さん良い事ばかりと思ったら大変な間違いですよ。此
れからサービスエリアで休憩して彼方に着くまで何があるか。それは私のカラオケ
でしっかり辛い思いをしていただきます。今から逃げようったって駄目です。皆さ
ん覚悟めされよははは」

 つづく


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