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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:67

 あらすじはNo:57にあります。
抜けている部分は回毎に折り込んで行きたいと思っています。


 自分を狙っていると考えられる相手は、身近では自分党の元最大派閥
の面々が思い当たるが違う感じを福賀は受けている。
何かアメリカの匂いを感じるのだ。
CIA?
そんな感じが前と後ろから迫ってくる。

「よし、前に回って路肩で対応しよう」
思った瞬間に福賀の車は前のバイクを抜いて走っていた。
程よい先に路肩を見つけ車を寄せて降りた。
前を走っていた車と後ろから着けて来たバイクが止まった。
拳銃を使われては不味い。

 彼らの目的は解っている。
福賀は素早く気を放った。
相手は動きを止められて固まった。
バイクに暫く乗れないようにして置かなければならない。
二人の両腕と両足の関節を外した。
通りがかりの車に怪しまれないように姿勢を作り其の場を離れ一路
伊東温泉・山海ホテルへと車を走らせる。

「あの車は福さんじゃないか?」
「そのようですね」
「何処で抜かれたんだろう?」
「全く気が付きませんでした」
「今、変なニュースが入りました」
「何だって?」
「東名高速道路の路肩にバイク2台と両腕と両足の関節を外され気絶し
ている外人男性二人が発見されたそうです」

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「誰がやったか解るよ。おいらには」
「私もなんとなく解ります」
「でも無事で良かったですね」
「此の事は本人には聞かないでおこうぜ」
「何しろ合気道九段・少林拳師範・気功術師だし」
「そうですよ。飛び道具には敵わないでしょうけど、接近戦では向かう
所敵なしでしょう」
「それは本人が良く解っているから心配ない」

「今度の所信表明に在りましたね。ミサイルを打って来たらUターンを
させる方法を研究するチームを準備していると」
「良いね。そうした何処にも無い研究をカードにすると良いね」
「そうですよ。切れる有効なカードをたくさん持たなければ」
「よりよい環境づくりですね」
「そうそう。良い事って何だって事ですね」
「福さんってハイテクじゃなくてアナログだと思ってんだけど意外とね。
コンピューターに強いらしい」
「そうですね。自然派だと思いますが、科学にも理解があって頼りにして
いますね」
「文化と科学のバランスを考えていらっしゃる」

「そうですね。何しろ色々な事を吸収する力は物凄いです」
「あの力は何処から湧いてくるんでしょう?」
「多分、3歳で両親を交通事故で無くした事に起因してるんじゃないかと
思っているんだが」
「金銭的な財産は無いから親から授かった無形の財産を資産にして出来る
限り生かして増やそうとしてる」
「中々そう云う具合には行きませんがね。福さんみたいな人間は珍しい」

「そうですね。引き取った後、合気道を教えた叔父さんも偉いです」
「日本の武道で精神を良い方向に鍛えた」
「ニックネームで福賀専務って我々は呼んでいますが実に親しみ易いです」
「そんな性格ってご両親の無形財産なんでしょうか?」
「そうかも知れないな」
「でも、そうだとばかりは云えないと思いますよ」
「そうだな。親のせいにしてばかりじゃいけないな」
「何がどうして良かったり悪かったりするんでしょうかね」
「何か哲学的になって来たな」

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「大将。哲学してませんか。味覚の世界で」
「おいとけ!おいらそんな難しい事やってねえよ」
「またまた」
どっと車内が笑い声で沸いた。
そしてバスは伊東温泉・山海ホテルに到着。

「ようこそ福寿司ご一行様。山海ホテルにお越しくださいました。あの方は
先ほどお着きになりました。先ずは皆さん大広間の方にご案内させていただ
きます」
「もうあの方は手が付けられないヤンチャで突然のご希望でご迷惑を掛けて
申し訳ありません」
「とんでもありません。それがあの方の良いところでしょう。何時もハプニ
ングあんどサプライズで楽しませていただいてます」

 福寿司の客も福賀大好き人間ばかりだから二人の掛け合いをニコニコして
聞いている。
「あの方があれをお辞めになって来られた時はマスコミの方がお出でになっ
ていてダメでしたが今日は大丈夫です。大浴場露天風呂を男風呂と女風呂そ
れぞれ30分福寿司さま恒例の貸し切りにさせていただきます」
「やった~!」
「わ~っ」
控えめだけど大きな拍手と歓声が上がった。
手際よく女将が部屋割りをして、貸し切り券を希望者に配り、本日の福寿司
一泊温泉旅行の大イベントが始まった。

 先ずは男湯大浴場露天風呂から始まった。
福賀が付き合うのは10分程だが龍が温泉で泳ぐ図を恰も別世界に来たよう
な感じになって皆それぞれ固唾を呑んで見つめてた。
この時間を共有するのが堪らなく嬉しいのだ。
福賀が上がって行くと詰めていた息をいっせいに吐き出し元に戻った。
「凄い!」
「いつ拝見しても凄いです」
「いや~ぁ素晴らしい」
「隠すって良いもんですね」
「刺青とタトウ。それぞれ意味があるんでしょうが。私は隠してる刺青の方
が凄いと思うし、素晴らしいと感じます」

 大浴場露天風呂女風呂の入り口には貸し切りの看板が立っていて、係の女
性が対応しており中に連絡をする。
「まもなく福賀様がいらっしゃいます。湯船に入ってお待ちください」
何度かの人も居れば初めての人も居る。
みんな湯船の淵に背をもたせて並びながら福賀を待つ。

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「失礼します」
入って来た。
掛け湯をしている音が聞こえる。
歩いて来る足音だ。
湯船の淵を右に回った。
みんな目を閉じて見ていない。
内閣総理大臣が今、同じ温泉に入って来た。
多分きっと裸だろうって当たり前だろう。
裸だったら総理だって関係なく同じ人間同士だ。
だけど違うのは女じゃなくて男だって事。
そうだ、男女機会均等だ。
だけど違うのは背中に龍の彫り物がある事。

 それは解って居るけど、どんなモノか見たことがない。
「みなさん。見たくなければ目を閉じていてください。私の背中の龍が泳ぎ
ます」
福賀が云うと同時に湯面が揺れた。
思わず其の衝動で目を開いた夫々の前に波打って龍が泳ぎ、散った桜の花弁
がうっすらと赤みに染まっていた。
何て事だろう。
此処は何処?私は誰?
此れは時代劇のパロディなのか?
男女機会均等だけど・・・違い合っている事を無視は出来ない。
夫々の違いとどう向き合うか、そしてどんな関り方をして行くかだ。
福賀は明日、冬眠の経験が待っている。


つづく

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