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小説「イメージ4」

小説 イメージ No:66

 あらすじはNo:57にあります。
抜けている部分は回毎に折り込んでまいります。

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 小さな海岸の夏になると家族ずれや若者たちで賑わう町で叔父夫婦に
育てられた3歳で両親を交通事故にあい亡くした福賀は友人に頼まれ1
日だけ海の家を手伝った事があった。

 その時にたまたま友人と一緒に海水浴に来ていたナミカに逢い、後に
株式会社雪月花入社に繋がって専務になり、3年目に結婚してパリに旅
行した二日目に自分党の総裁候補の岩上から手伝いを頼まれ副総裁を条
件に承知する。

 二人の共通した理念”よりよい環境づくり”を元に働き可成りの業績を
上げるも岩上の度重なる心筋梗塞による辞職で手伝う身の福賀は共に辞
し元の職に戻るが野党第一党「みんなの党」党首大海から新しい党作り
を誘われ新党「和」の党長になり副党長に松竹梅子を置き総選挙に挑み
勝利して内閣総理大臣になり、今、初めて自分の所信表明を行っている。

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 議場内は勿論だが、場外ではテレビの前に以前よりも多くの人たちが
固唾を呑んであの時の感動を再びと集まっているに違いない。
手に何も持たないのは前回の代理演説の時と同じだ。
今回違うのは何も持たない手と指を使って耳で聞けない人たちに対して
話をしている事だ。

 世界共通でないのが悲しい現在の手話だが今は仕方がない。
福賀もそう思っているが今の時点で人間同士として共通でありたい気持
ちは此処までしか表現出来ない。
議員の後ろに居る自分と同じ国民の多くの人に伝えたいと願って今まで
手話を習ってきた福賀だ。
今、その成果が問われている。

 相方のナミカは自分が立ち上げたNPOで、福賀は雪月花以来の先生に
習い家に居る時はナミカと手話で話し合って来た。
内容は”よりよい環境づくり”を以前に増して充実させていた。
総論・各論・具体策を20分の休憩を挟んで2時間を熱い気持ちで語り
切った。

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「福さん。大した者だ。同じ事は二度としないね、本当に天晴だ」
福賀が行きつけの銀座・福寿司はこの時を待っていた客で満席状態になっ
ている。
そんなに広い店ではないから45人で満席。
大将が泣いている。
女将は後ろ向きで肩を震わせている。

「何て事をしてくれたんだろう。前回と同じで上等だと思ってましたよ」
お客だって感動で胸を詰まらせている。
「もう、有難うとしか言えません」
「うちらの福賀さんだもんね。誰よりも嬉しくて堪りません」
それぞれが目頭を押さえている。

 あの時はって云ってもつい先ほどの事だが、手話を使った所信表明演説
が終わっても議場は暫くは静寂な時が流れ誰もが呼吸さえ忘れて仕舞った
のではないかと思った。
野党席の一人が立ち上がって拍手をすると気が付いたように一人また一人と
立ち上がり与党と野党双方の議員が全員立ち上がりスタンディングオベレー
ションが前回より長く続いて鳴りやまなかった。

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 その拍手は議事堂を越えて日本の北から南まで感動の塊になって広がって
いった。
何処に居てもこの感動に逢いたいとテレビのある所に集まったに違いない。
そして世界で初めての手話入りの総理大臣所信表明演説は地球を駆け巡った。

「まさかこの様な演説になるとは誰も思いもしなかったにちげえねえ」
「まさに、福賀さんじゃなくちゃって、つくづく感じました」
「この手があったかって今にしてみれば思うけど、やられて初めて思うので
あって、思っていなければ出来ないことですね」
「本当だよ。福さんがしてくれている事は後で気が付くけど思ってない者に
は、思いもつかない事ばかりだ」
「全くです。また出来る人だから出来るんで、それもイメージなんでしょう
ね」
「でも、今まで出来る立場に居ても出来なかった事って多くないですか?」
「そうだね。やれば出来るのに、やらない人って多いよね」
「福さんみたいにさ、出来る立場に居る人はどんどんやってほしいよな」
「戦争以外ですがね」

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「その点、我らの福賀専務、うち等だけのニックネームだから福賀専務で良い
でしょう。”よりよい環境づくり”どう発展していくか楽しみです」
「テレビのニュース凄いですよ。アナウンサー興奮してます」
「そりゃあ興奮するでしょう。あの演説で冷静でいられないでしょう」
「福賀総理大臣が居なくなったらしいですよ」
「必死に探していますって」
「これ又、事件ですね」

「大将。ご無沙汰」
「誰か入ってきましたよ」
「テレビで探してる人みたいですよ」
「え~ぇ!今取り込み中なんだけど」
「そんな冷たい事云わないで大将!」
「ひや~ぁ。出ましたね」
「そんな。幽霊みたいに云わないでください」
「だってあそこ(テレビ)に居る人が此処に現れたら」
「これでも自分の車持ってますからひとっ飛びです」

「テレビで必死になって探してるよ」
「知ってます。探して私を捕まえるのが彼方の仕事ですから」
「良いんですか?」
「良いんです。云いたい事は云って来たし、やる事やってきたしね」
「それはそうだけど。良いんですか」
「良いんです。私が来たんで行きましょう」
「解りました。福さんにはかないません」

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 後は大将と女将の阿吽の呼吸で事が運ばれていく。
「本当に良いんですね」
「本当に良いんです。温泉で一汗流したいです」
「何か握りますか?」
「そうですね。やっぱり大将にお任せします」
女将が嬉しくて仕方がないって感じでお茶と久保田の萬壽を福賀に。
「って訳で皆さん解ってるね。いつものアレ行きます。内緒だよ」
今夜こそ誰も行けない客は皆無。
総理と一緒は伏せて誰もが必死で連絡相手の了解を取り付けて全員参加。

 そうこうしているうちにバスが到着の知らせが来る。

「お久し振りです」
「無理を言って申し訳ない」
「何時もの事で・・・」
「運転は車常務です」
「私は自分の車でついて行って途中で抜いて先に行きます」
「解りました。気配りしながら行きますからご安心を・・・」
「有難う」

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「内緒ですよ。こないだはマスコミ関係者が居るとホテルからの情報で
皆さんと一緒に温泉に入れませんでしたが今夜は大丈夫みたいです」
「お前さん、両方OKですよ」

 東西観光のバスに添乗員の案内で乗り込み開始。

「では、皆さんお客さんから順番に乗ってください」
「福さんは?」
「ご自分の車で行かれるそうです」
「ハハハお忍びなんだな今夜は」

 福賀は議事堂を抜け出す時から不穏な気配を感じていた。

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 つづく
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