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小説「イメージ4

イメージ No:65

 あらすじはNo:57にあります。
抜けている部分は回毎に折り込んでいきます。
 
 誰でも福賀が何をして来たか解っている。
そして、未だやり残している事が何かも知っている。
前総理の岩上も前副総理の福賀も居なくなった自分党がどんなものか解っている。

 福賀は以前から人間が冬眠出来たら疎外されて弱っている地球の滅亡を防げると
思っており、研究チームを立ち上げて其の成果を期待している。
既に可成りの成果を上げており、難病などの治療に有効だと報告があった。
完成したら冬眠人間第1号になる事を決めている。

 其れはそれ、今の福賀は立候補者の応援演説はせず専ら副党長の松竹に任せ自分
は立候補者が居る土地のお祭りに参加して踊りまくっている。
時季外れだが何故か8月に在る筈の郡上祭りが岐阜で行われていてその踊りの中に
福賀が居た。

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 そして其の後は富山でおわら風の盆が9月の筈が6月に行われており、その中
に福賀が居た。
夫々一日だけではあるが、福賀を呼ぶように祭りを行って待っているようだ。
解り合えるのは心と心で今更言葉で伝え合う必要を感じていない。

 衆議院議員の定数は465名、参議院議員の定数は248人。
マスコミが情報として仕入れた新党「和」の其れ其れの立候補者数はいささかオー
バーに伝わっていたようで実際は衆議院議員の立候補者300名で内200名が女
性、参議院議員の立候補者は200名で内100名が女性。
替わることを余り好まない国民性を考えると福賀のイメージ通りには行かないだろ
うと思われていた。

 しかし”よりよい環境づくり”の続きに期待する気持ちが多かったのか新党「和」
は他の勢力を寄せ付けずに圧倒的な勝利を得て各院内で第1党として充分な議席数
を獲得して本会議の日がやってきた。
何人かの総理立候補者が立ったが当然の事として福賀貴義が内閣総理大臣に選出
された。

 議会運営を速やかに行うべく、次回の国会は二日後に行われることになった。
5年前の総理の所信表明演説を代行した福賀の原稿無し2時間の総論・各論・具
体策演説を多くの人が覚えているに違いない。

 二日後にあの時の感動を又しても受けられるのではないかと楽しみにされてい
るが、福賀はどうしているのだろう。

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 銀座の福寿司では二日後の総理所信表明演説の話題で盛り上がっている。
「大将!二日後だってね。随分と早くないですか?」
「そうだね。前は1週間はあったよな」
「大丈夫ですかね。福賀専務さんの事だからうち等が心配することは無いと思う
けど」
福寿司では福賀貴義は株式会社雪月花の専務が通り名になっている。
「前に当日でやってのけた経験があるから二日あればどうって事ないだろうよ」
「何しろ我らの専務さんが総理大臣で演説するんだから嬉しいじゃありませんか」
「部長が専務にそして副総理に今度は総理だよ」
「なんて人なんだろう」

「こんな人でこんばんは」
「え~ぇ 来ちゃったよ」
「大将。暫くでした」
「う~ん。何て答えて良いんだか。お疲れ様です」

「おかみさん。済みません。お茶とお酒をお願いします」
「よくま~いらっしゃいました。久保田の萬壽すぐお持ちします」
「大将。例のあれ良いでしょう」
「良いんですか?」
「良いですよ」
「女将!暖簾しまって」
「あいよ」
「皆さん突然ですが此れから店の温泉一泊旅行になりました。解っていますね。
皆さんを信用している人が此処に居ます。行ける人はそれなりに。行けない人は
次の機会にご一緒と云う事でよろしく」
大将の一声が店の中の空気を一変した。

「え~。何故今日なんですか?」
「申し訳ない。この次埋め合わせしますから」
「ラッキーついてるね。今日来て良かった」

「バスが来るまでちょっと何か握ってくれますか大将。お任せで」
「あいよ。明後日だって云うのに良く来てくれた福さんおいら嬉しいよ」
「いや~此処に着て温泉が一番ほっとするんでつい来てしまう」

「どうしたら良いんですか?私行けるんですが」
「女将。面倒見てあげて」
「おうちに事情を電話して了解を取ってください。急に福寿司の旅行について
行くことになりましたって。総理の事は伏せてください。良いですね」
「何でだって云っています」
女将が変わって大将の気まぐれで費用はいりませんのでご心配ありませんと
取りなしている。

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 そうこうしてると東西観光のバスが着きましたと添乗員が知らせに来る。
今は副社長になっている山谷が添乗員として乗ってきた。
運転は部長から取締役になった車が運転して来た。
福賀は立候補するまでは東西観光の社長だったのだ。

「お疲れ様です」
「突然無理をお願いして申し訳ない」
「何時ものことで驚きません」
「そうでしたね」
「車が運転してきました」
「そう」

 いつもの様にSAでトイレ休憩をして一路、伊東温泉・山海ホテルへ車は絶妙な
感じで走り続けた。

「ようこそ山海ホテルにお越しくださいました。先ずは大広間の方にご案内させて
いただきます。今日は何時もと違って貸し切りが出来ません。マスコミ関係のお客
さまが大勢さんおいででして・・・申し訳ありません」

「そうですか。それは残念だけど仕方がありません。道中一緒だっただけで十分と
します」

 福賀は山海ホテルの最上階にある自分の部屋に入って女将を呼んだ。
「お世話になります女将さん。此処の来るとほっとします」
「福賀さんがリニューアル・デザインをしてくださったからでしょう」
「それだけではない。何か別の感じがそうさせているのです」
「そうでしょうか。私は自分で此処に居ると本当に気が休まります」
「お互いに同じ気持ちなのかも知れない」
「そうだと思います。何をお持ちしましょう」
「ワインを飲みたい気分です」
「畏まりました。お湯ご一緒よろしいでしょうか」
「どうぞ」

 そして二日後のその時がやってきた。
恐らく全国のテレビの前には固唾を飲んで見つめて居る人たちが居るだろう。
あの時の感動を再び味わいたいと思いながら。

「福賀総理大臣どうぞ」
議場はしんと静まり返っている。
男女半々の大臣席の中から福賀が立ち上がって歩いてくる。
あの時と同じだ。
手には何も待っていない。
議長に挨拶をして演壇に登って深々と頭を下げてお辞儀をした。
さて・・
何だ何だ手と指を使って話し出した。
手話だ。

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手で見る学習絵本「テルミ」243号から

つづく


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